成功した芸能人は焼肉店を目指す

「なぜ成功した芸能人は焼肉店を開くのか」外食コンサルが読み解く”魅力のカラクリ”

成功した芸能人は焼肉店を開きがち。

最近では、宮迫博之が渋谷に焼肉店「牛宮城」を計画し、話題を呼んでいます。

なぜよりによって焼肉店なのでしょうか。

「牛宮城」を巡る経緯

芸能界でかつて超売れっ子だった、宮迫が準備を進めている高級焼肉店「牛宮城(ぎゅうぐうじょう)」は、渋谷の一等地にあります。

元々は宮迫自身のYouTubeチャンネル(チャンネル登録者数139万人)で、人気YouTuberヒカル(同465万人)に「焼肉店を開きたいから、1億円出資してほしい」とドッキリを仕掛ける動画が発端です。

しかしヒカルが予想に反して受託したことで、本当に焼肉店をオープンするプロジェクトとなりました。

当初は2021年10月オープン予定だったのですが、さまざまなトラブルに見舞われ雲行きが怪しくなり、さらにはSNSでも炎上したことで、翌22年3月へと延期になりました。

またヒカルが共同経営から撤退したことで、予定通りオープンできるのかは不確実だ。あくまでも高級路線で出店したいヒカルと、幅広い客層に向けて営業したい宮迫の間で、意見の相違があったようだ。

その後、新たに助っ人として焼肉ハウス「大将軍」を経営するガネーシャCEOの本田大輝さんが加わったが、さらなる内装の手直しに2000万円以上がかかる見込みとなっています。

焼肉店もラーメン店同様に、多くの芸能関係者の名前があがる。なぜ芸能人をはじめ有名人と呼ばれる方々は、焼肉店を始めがちなのでしょうか。

焼肉店に料理人はいらない

1つ目は、焼肉は外食としてオーソドックスだからです。

売れない時代からブレイク後まで、それこそ安価から高額なあらゆる焼肉を食べ慣れているからこそ、肥えた舌で味が把握できる安心感もあるでしょう。

2つ目は、焼肉店は牛肉を焼く機器とテーブル、排気施設を配置する初期投資の装置産業(十分な装置や設備を整えればそれだけで一定の成果・収益が期待できると見られる産業)であり、最初に大金さえ持ち合わせていれば参入しやすいのです。

焼肉店といえば、客がおのおの肉を自分で焼くスタイルになります。

料理人を雇う必要もありません。

昔は焼肉店といえば職人の世界でした。

お店で部位ごとのブロックから大量の脂身や筋をはがしたり、そぎ落とす作業(業界用語では「掃除」と呼ばれています)、また隠し包丁を入れて焼いても縮まずに食べやすくする作業が必要でした。

特に筋部分は長年の経験がものをいうのです。

しかし、現在では、牛肉専門の業者にブランド、ランク、部位ごとにグラムを選んでビニールパッキングしたものをセット納入させてもらうことが可能になりました。

また焼肉のタレさえも、各種の提案からオーダーメイドで選択できます。

甘めか、フルーティか、またはサラッとしているものか、とろみがあるタイプかなどを肉との相性を考えながら試食会で複数を試せるのです。

極論をいれば、焼肉店のお店には包丁がまったくなくても構わないのです。

例えば、誰もが知っている有名焼肉チェーン店では、店舗に包丁を置いていません。

レモンをカットするためのペティ・ナイフ(フルーツや野菜を切る専用ナイフ)だけしかなく、効率性を求めて営業しているところがありました。

客単価が高いのでラーメン店などより儲かる

さて、なぜ彼らは儲かると思い込むのでしょうか。

それはスターである自分の「顔」が最大の広告宣伝効果となり、話題性もあり集客がたやすいと思っているからです。

しかも焼肉店の客単価はラーメン店などと違い高価格帯で、複数の来店者(一人客は少なく、カップルや飲み仲間のグループ、家族連れなど)で回転するため、経営が安定すれば高収益を確保して儲け幅も広がるのです。

そのため1号店の経営ノウハウが確立すれば、2号店や3号店など多店舗経営へと発展しやすい。

フランチャイズ経営でも、その芸能人ブランドの権利を売りやすいのです。

なお芸能人本人がオーナー(出資)を務めるだけではなく、そのネームバリューによる各種プロデュースや名義貸しだけのイメージキャラクターなど、さまざまな関与の仕方があります。

それでも、なぜ失敗しがちなのででしょうか。

成功者だからこその「根拠のない自信」が足枷に

1つ目に一旗揚げたお山の大将である芸能人は、お店の開業にあたり自分をヨイショする人ばかりを集めたがるのです。

そして本人自身も、悪い話は聞こうとしない傾向があります。

そこには「個人事業主として自分一人の実力でここまで成し遂げたのだから、絶対に間違える判断はしないはず」という安易な自負が見え隠れします。

いわゆる「根拠のない自信」が芽生えるのです。

芸能界で暗中模索のなかからうまくのし上がったのだから、飲食業界でも問題なく成功するという甘い考えです。
以下、その推測をする理由を羅列してみます。

まず、食べログのマーケティング・データを紹介します。

同サイトは約1億1113万人(月間利用者数)、約15億5626万PV(月間PV数)の日本最大級のグルメWEB(2020年12月現在)。

投稿者が実際に使用した金額が反映されるので、生の声としてデータ活用がしやすいのです。

東京都の焼肉店でデータがあるのは、約4600店。

そのうち食べログ点数上位1000店では、客単価は4000円台が一番多く、5000円台が次に多いことがわかります。

立地の面でみると、牛宮城がオープンする予定の渋谷は上位1000店中、たった24店(2.4%)しか出現しません。

客単価は4000円台が圧倒的です。

つまりこのデータからわかることは、渋谷自体が焼肉に適さない不毛の地であることがわかります。

現に「牛宮城」がある店舗は、前も焼肉店であり閉店に追い込まれた物件なのです。

耳が痛い話でも指摘するコンサルタントが仲間となっていれば、こうはならないはずではないでしょうか。

このような客観的な事実すらも見ずに立地を決めているならば、「豚に真珠」「猫に小判」で何を言っても無駄であり、失敗確率を高めるだけです。

最低でもテーブル1台あたり10万円の設備投資が必要

焼肉店は投入する資本が高額になります。

それぞれのお客さまのいるテーブルごとに、肉を調理する機器と排煙機具を準備しなければいけないからです。

まず焼肉店のテーブルには、大きく分けて「七輪、ガス・コンロ」と「無煙ロースター」の2つに分けられます。

「七輪、ガス・コンロ」で焼くスタイルは、比較的、安価な焼肉店に多く見られます。

排煙フードを上引きタイプにして、テーブルの真上に設置します。

1台あたり、10万円からの価格帯となります。

一方、「無煙ロースター」は、機材1台あたり20万円からとなります。

客単価が中~高価格帯のお店に多くなっています。

排煙は下引きタイプであり、無煙ロースターが入ったテーブルを床に固定、床下のダクトと繋ぎ排煙する仕組みとなります。

床面の下に余裕がなければ掘り下げるか、床を高台にする工事となります。

その工事も1台あたり20万円からかかるのです。

それに店内全体のダクト工事もあり、その距離によりかかる費用が変わってくるのですが、約100万円からが相場。

例えば店舗から屋上まで煙を逃がすダクトになると、1階上がることに約30万円ずつは追加でかかります。

お客さまの見えない裏側では、多くの施設費用がかかっているのです。

試食会では「おいしい」しか言わない芸能人たち

それに加えて、焼肉店の壁や床となる内装の張替えが、一般的なお店よりも高くつきます。

肉が美味しく焼けたジューシーな油と香ばしい煙は、客席からもれてしまいます。

そのために排煙工事は当然ですが、かつオイル・ミスト(空気中に浮遊する微粒子状の油)や、その油汚れが壁や床、シートにしみ込み残らないように、水拭きだけで汚れが落ちるコーティング素材など、機能性ある内装材を選択することとなるのです。

通常の飲食店であれば、壁や床材などの内装工事は、坪単価で約30万円前後が相場になるでしょう。

そこに耐久性がある内装材にすれば、さらに坪単価は10万円以上の上乗せして高くなってしまいます。

焼肉店は他の飲食店と比較して、初期投資でかかる費用や原価率が高く、有名焼肉チェーンや付加価値ある他ジャンルのライバル店、例えば、寿司屋などとの競争にさらされます。

飲食店のなかでも、ハイ・リスク、ハイ・リターンの典型的なパターンといえるでしょう。

これだけの投資をしても、経営に熱を入れる芸能人は多くはありません。

試食会で「おいしい」という連呼しかしない芸能人もいます。

それでもプロデュースしたことになるのです。

ひどいもので、自分の名前が入っている店舗がどこにあるのかもわからないアイドルもいました。

中にはオープン日だけはテープ・カットで顔を出し、その後は一切の来店がないこともあります。

実際にはオーナーではなく、名義貸しだったかもしれません。

閉店に追い込まれる理由は「人」

メディアには飲食店のオーナーになったりプロデュースしたことを発表していますが、その後の経緯を見ると実体を伴わないことも多いのです。

たとえ一時的に成功したとしても、何年も継続してうまくいく保証はありません。

ブームとは、必ず終焉を迎えるものです。

長く続けるには、絶えず変革を遂げないといけません。

最初は人気店でも、話題性に飛びついたお客さまが一巡するとリピートすることなく閑古鳥が鳴くお店は多々あります。

閉店に追い込まれる理由は、最終的にはやはり「人」に尽きます。

まずは高級店になればなるほど、メニュー開発で差別化をはかるべく焼肉業界専門の調理人、料理長がいないと難しいでしょう。

次に芸能人オーナーが足しげく各テーブルをまわり、お客さまと会話を楽しんで喜ばせているのかが問われます。

ところが最初だけは顔を出していても、だんだんと足が遠のき、誰が経営しているかわからない状態では、わざわざ行く価値も薄れてしまいます。

芸能人オーナー自体が客寄せパンダであり、そのパンダがいることが最大の来店理由であることが、アタマではわかっていても実行が伴わなくなるのです。

もしも上野動物園にパンダを目的に見に行って、いなかったら悲しむでしょう。

その気持ちを想像することすらできなくなってしまいます。

ブルー・オーシャンを狙って成功した焼肉ライク

そのため留守を預かる支配人の役目は、芸能人の代理オーナーとなり店舗における全権大使の権限にも勝ります。

大きな事件(食中毒)などを起こした際は、最終的にオーナーが謝罪することになりますが、その現場を取り仕切り対応、最後まで収拾するには支配人の力に追うこととなるのです。

ラーメン店の話になりますが、オーナーが行く度に味が変わり、それに加えて知らないメニューを出していたことがあったそうです。

味が変わっていると指摘をすると、レシピ通りだといわれて信じてしまいます。

その結果は閉店になったのは明らかでしょう。

採用面接では、履歴書や話す内容だけで信じてしまうのではなく、前にいたお店へ問い合わせをしたり、試食を作ってもらったり、業界関係者に照会することを行います。

聞いていた話が違うことを避けるため、実際のアウトプット(事実)で、総合判断すべきなのです。

さて、W・チャン・キム氏とレネ・モボルニュ氏の共著『ブルー・オーシャン戦略』(ランダムハウス講談社)で、レッド・オーシャン(血で血を洗う競争の激しい市場)とブルー・オーシャン(開発も価格競争も青く澄み渡る未開拓の市場)という考え方が提唱されました。

焼肉店の特徴に一人客が少ないと指摘しましたが、そのブルー・オーシャン戦略で一人客をターゲット層に成功したのが「焼肉ライク」です。

そのため、渋谷の地で客単価1万円以上の高級焼肉店は、ブルー・オーシャン戦略として検討する余地はあるでしょう。

芸能人自らによる丁寧なサービスが打開策に

徹底的な高級路線の識別化をはかるのも手です。

例えば会員制で年会費や入場料を制度化したり、紹介制を導入するのもありです。

黒服のイケメンスタッフや女性モデルが対応し、予約時間の前には1階の入口で待機、お出迎えそしてエレベーターで店舗まで案内。

到着した際には、インカムでホール・スタッフに知らせて店頭でスタッフ全員でのごあいさつをおこないます。

そしてソムリエを配置して、希少価値の高いワインや日本酒とのペアリング対応をはかります(飲食業の基本はお酒で儲けることです)。

たとえ地方出張でお店に芸能人オーナーがいなくても、食事中に電話一本でごあいさつすることはできるでしょう。

もし番組出演やロケ中であれば、事前にタブレットでビデオ・メッセージを撮影し、予約客の名前を呼びながら感謝の言葉を述べるのです。

デザートをワゴンサービスで提供する方法もあります。

昔ながらのグラン・メゾン(高級フランス料理店)では、「クレープ・シュゼット」(クレープにオレンジ・ジュースとリキュールを注いでフランベして作る伝統的なデザート)などをメートル・ドテル(ヘッド・ウェイター)がお客さんの目の前で作り上げ提供しています。

おもてなしの徹底で差別化を

顧客管理を徹底しておき、来店時には好き嫌いに応じた食材やドリンクをメニューに取り入れ、左利きであればナイフやフォーク、箸の置き方を変更しておきます。

さらに家族の誕生日や結婚記念日などハレの日(特別なイベント)前には、利用促進のメールや手紙を送るのです。

つまり、提供する牛肉の品質が高いことはもちろん、それ以外におもてなし部分をグレードアップ強化するのです。

現在、実は宮迫とは別の共同オーナーがいたり、ヒカルはそのオーナーとは仕事をしたくないので降りたなど、新たな事実が判明して予断を許さない状況下です。

もしもこれが最初からの予定調和でシナリオ通りの進行でしたら、影にいるプロデューサーの思い通りに踊らされているのは、YouTubeを楽しみにしている視聴者でしょう。

もしかすると、私たちは芸能界のドラマや茶番劇を見させられている可能性もあるのです。

その壮大なストーリー展開の結末は、立ち上る煙のなかにあるといえるでしょう。



 

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