後悔しながら死ぬ人と満足して死ぬ人の違い

「後悔しながら死ぬ人、満足して死んでいける人」を分ける意外な要素

老年医学の専門家として、長年にわたり現場で高齢者たちをみてきた精神科医の和田秀樹さんは「お年寄りはもっと遊ぼう。それが心身の健康度を上げ、健康寿命を延ばすことにつながります」といっています。

新著『70歳から一気に老化する人しない人』を上梓した和田さんがすすめる「70歳からの新しい生き方」とは。

男性は73歳、女性は75歳が「老化の分かれ道」

日本人の平均寿命は、2020年(令和2年)の調査によると、男性が81.64歳、女性が87.74歳です。

これは、「何歳まで生きるか」という平均年齢を示すものです。

と同時に、ズバリ言うと「何歳で死ぬか」という平均値でもあります。

では、「男性は9年間」「女性は12年間」──この年数がいったい何を示すかわかりますか。

実はこれ、病気や認知症などで寝たきりになったり、誰かに介助されたりしながら生きる平均年数を表したものです。

「健康寿命」という言葉を聞いたことのある人も多いと思います。

心身ともに自立していられる年齢のことを意味します。

その年齢は、男性が72.68歳、女性が75.38歳です(令和元年調べ)。

つまり、平均して男性は73歳、女性は75歳で、誰かの介助が必要になるのです。

病気や認知症で寝たきりになるレベルでなくても、身の回りのことを一人でできなくなり始める平均年齢です。

先に記した男性9年間、女性12年間とは、平均寿命から健康寿命を引いた数字。

身の回りのことを一人でできずに過ごす年数がこれだけ長いことに驚く人もいるかもしれません。

もちろんこれは統計上の数字にすぎませんが。

健やかな老後を過ごしたい…

「人生100年」といわれる時代になりました。

日本にはいま100歳オーバーの人が8万6000人もいるそうです。

皆さんの周りにも、とても元気な100歳前後の人がいるでしょう。

しかし当然ですが、「100年時代」といっても全員が90歳、100歳を迎えられるわけではありません。

また、90歳、100歳を迎えたとしても、全員が健康で幸せであるという保証もありません。

介助を受けてベッドで過ごしている、ボケてしまって自分が誰かわからない、ということも考えられます。

先に平均寿命と健康寿命について説明しましたが、できればその差──身の回りのことを一人でできずに過ごす年数──を短くし、健やかな老後を過ごしたいと考えるのが、人情というものでしょう。

誰もが人生の最後に通る「道」

当然のことながら、人はそれぞれ年齢も体型も違います。

性格や考え方も違います。生活の環境や仕事も家族構成も違う。

一人ひとりは、まったく違う人生を歩むまったくの別人です。

しかし、すべての人に共通することがあります。

それは、全員が「やがて死んでいく」ということです。

これだけは避けようがありません。

死に至るまでには、2つの道があります。

1つは、幸せな道です。

最期に「いい人生だった。ありがとう」と満足しながら死んでいける道です。

もう1つは、不満足な道です。

「ああ、あのときにこうすればよかった」とか「なんでこんなことに」と後悔しながら死んでいく道です。

どちらの道を選びたいか?

それは聞くまでもありませんね。

「ない」ものを数える人、「ある」ものを大切にする人

最期に満足しながら死ぬために大切なこととは何でしょうか。

突き詰めるとそれは、たった1つに集約できます。

老いを受け入れ、できることを大事にする、という考え方です。

これが「幸せな晩年」と「不満足な晩年」の境目になると思っています。

「幸せ」とは、本人の主観によるものです。つまり、自分がどう考えるかによって決まるものです。

たとえば、自分の老いを嘆き、「あれができなくなった」「これだけしか残されていない」と「ない」「ない」を数えながら生きる人がいます。

かたや、自分の老いを受け入れつつ、まだこれはできる、あれも残っていると「ある」「ある」を大切にしながら生きる人がいます。

どちらの人が幸せなのでしょうか?

私のこれまでの臨床経験では、「ある」「ある」で生きる人のほうが幸せそうに見えました。

家族や周囲の人とも、楽しそうにしている人が多いと感じます。

70歳からは「“幸”齢者」を目指そう

いま日本では、65歳以上を「高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と呼んでいます。

でもなんだか機械的な響きで、ちょっと切なくありませんか。

ここまで頑張って生きてきたのですから、もっと明るくて希望の持てる呼び方にすべきだと、私は常々思っています。そこで提案したいのです。

70歳を超え、楽しく充実した暮らしを送っている人は、高齢者ではなく「“幸”齢者」──。

この呼び方なら、温かみや年をとることへの希望も感じられるでしょう。

幸せな晩年を過ごして、人生をまっとうしたい。私たちが目指すべきは「幸齢者」なのではないでしょうか。

70代からは「個人差」を受け入れる

70代になると、世代全体の10%が認知症になります。

しかし残りの9割は依然として頭がはっきりしていて、健康な人とそうでない人の差が、それまでになくはっきりと分かれてきます。

70代では、外見の面でも社会的地位についても、それぞれ取り巻く状況が大きく異なってきます。

そのため、なにかと他人と比べて引け目を感じやすくなり、人によってはそれが重荷になってくるケースもありえます。

同世代の人よりもちょっとだけ早く老いを受け入れざるをえなくなった70代の人にとっては、「老いを受け入れる」ことは「個人差を受け入れる」とほぼイコールの行為でもあると私は思います。

自分を他人と比べている限りは抱えている苦しさから抜け出せません。

他人にはできて、自分にはできないことについて思いを巡らせて悶々もんもんとするよりは、「いまの自分に何ができるのか」ということを前向きに考えたほうが、ずっと健康的に生きられます。

また、「働いているほうが偉い」「社会的地位が高いほうが偉い」「見た目が若々しいほうが偉い」といった50代、60代までの価値観にいつまでも縛られているのもよくありません。

人と比較するより、自分の生き方を模索するほうが賢明だと、私としては信じています。

年をとったら、もっと遊ぼう

もう1つ指摘したいことがあります。

それは、高齢になると、「健康のために遊ぶ」「健康のためにお金を使う」ことも大きな意味を持ってくる、ということです。

日本では、高齢者は地味に暮らすのが当然だと思われていますから、「年金でカラオケに行くのはいかがなものか」「年金生活者がパチンコに行くとはけしからん」などといった非難を浴びがちです。

しかし家の外に出て遊ぶことで、前頭葉が刺激されます。

また、楽しむことで免疫機能にもよい影響を与えることができます。

ですから、むしろ「お年寄りはもっと遊べ」と言うべきでしょう。

感情の老化を予防するには、年をとるほど強い刺激が必要です。

脳の老化によって弱い刺激には反応しにくくなることに加えて、積み重ねた人生経験から多少のことでは心に響かなくなるからです。

お金を使ってよい刺激を受ける

仕事などで経験を積んだおかげで先が読めるから、ものごとをそつなくこなしてしまいます。

失敗することがなくなるのはいいのですが、面白さは薄れてしまいます。

「先が読めてしまう」と、刺激が失せるだけでなく、興味や関心までも色いろ褪あせるわけです。

それだけに、いままで以上に、意識して強い刺激を与えてくれる遊びをしたほうがいいのです。

資本主義社会とは、「お客様は神様です」の社会です。お金を使うことによって、よりよいサービスが受けられます。

それに、社会の第一線から退いたと感じている高齢者は、お金を使うことで自己愛が満たされることでしょう。

お年寄りの多くがお金を使って遊ぶと、これまで少なかった高齢者向けのビジネスも盛んになるでしょう。

高齢者がしっかり遊んでくれたほうが、消費が拡大し、経済が回ります。国内の景気のためにもいいのです。

「生涯現役」とは、高齢になっても働き続けるという意味だけでなく、「生涯現役の消費者である」という意味も含まれているのです。

70歳から一気に老化する人しない人 和田秀樹 (著) プレジデント社 (2022/8/31) 1,210円

70代は人生100年時代の黄金期。

「足りないもの足す健康法」で最高の自分を作ろう。

老いが怖くなくなる「生き方」の教科書

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「老親」がいる40代50代の現役世代にも役に立つ、家庭に1冊常備したい、実践的な知恵が満載の1冊です。

累計80万部突破の[和田式]老年本決定版。

男性は73歳、女性は75歳が「老化の分かれ道」。

目指すは「高齢者」より「幸齢者」?

第1章 健康診断を疑え
第2章 年代別「医学的に正しい」生き方
第3章 70歳からは「足りないものを足す健康法」
第4章 70代は人生100年時代の黄金期
第5章 80歳になったら、どうする?

著者について
和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院・浴風会病院の精神科医師を経て、現在、日本大学常務理事、川崎幸病院顧問、一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。著書には『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』『70歳の正解』(以上、幻冬舎新書)、共著には『頭のよさとは何か』(プレジデント社)などがある。

 

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