八月の銀の雪 伊与原新 (著) 新潮社 (2020/10/20)

耳を澄ませていよう。地球の奥底で、大切な何かが静かに降り積もる音に――。

不愛想で手際が悪い。

コンビニのベトナム人店員グエンが、就活連敗中の理系大学生、堀川に見せた真の姿とは(「八月の銀の雪」)。

会社を辞め、一人旅をしていた辰朗は、凧を揚げる初老の男に出会う。

その父親が太平洋戦争に従軍した気象技術者だったことを知り……(「十万年の西風」)。

科学の揺るぎない真実が、傷ついた心に希望の灯りをともす全5篇。

「理系的な題材と人の心、人の営み。知識により世の中の捉え方が変わり、心の持ちようが変わっていく。個の中の小さなパラダイム・シフト。
・八月の銀の雪:地球の中心に積もる、鉄の雪。
・海へ還る日:クジラたちの知性、歌。
・アルノーと檸檬:伝書バト、帰巣本能の仕組み。
・玻璃を拾う:珪藻のガラスの殻、珪藻アート。
・十万年の西風:原子力と風船と気象と凧。
どのお話も、美しいイメージや新しい情景が、少し前向きに生きる力をくれました。佳作。」

「科学的なトリビアと人間の心の襞が織りなす小さな物語、というのは2年前に上梓された『月まで三キロ』と同一コンセプト、同一ストラクチャー。前作と合わせた連作ということになりますが、心の襞の深みは前作のほうに強くシンパシーを感じたようなわけで。ぜひ読み比べてみてください。」

「伊予原氏のフアンであるが、いつもの作品に共通する穏やかなトーンが救われる。コロナ禍のもと、先の見えない不安さ、ふと「ノアの箱舟」を思わす終末感が漂いそうな状況のなかで、日常生活の出来事のなかにある人間を信じるまなざし、ことば、行動がささやかにつづられている。はとがけなげに元のところに帰ろうとする不思議な習性は人間が認知症になっても、虐待を受けても「家に帰る」、「おかあちゃんのところに帰る」という言動と重なって、熱いものが感じらた。伊予原氏の作品は、そんな意味では人間の根底にある感情を科学的な知見をまじえて、性善説としての人間の小説に創り上げてくれる。それが救われる。」


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