私が欲しかったもの 原裕美子 (著) 双葉社 (2021/3/17)

盗んでも、盗んでも手に入らなかったもの。

自分の居場所――望んだのは、ただそれだけだった。

北京五輪女子マラソン日本代表候補にまで選ばれた元トップランナーは、なぜ万引きで7度も逮捕されたのか。

そこには、現役時代から長年苦しんできて、摂食障害と窃盗症という病が隠されていた。

今、彼女は専門的な治療を受けながら、一歩ずつ確実に、回復の道を歩んでいる。

同じ病で苦しむ人、そして生きづらさを感じている人たちが前を向くヒントになればと、自身の過酷な体験を包み隠さず語った――。

〈またやっちゃった。なんでいつもこうなんだろう……。

ボーっとした頭のまま、自己嫌悪に陥ります。

イヤだ、やめたいと思いながら、食べ物を盗み、吐き出す。

そうなるのは心が弱いからだと必死に戒め、<数日の間、無事に過ごせたと思っても、ちょっとした負の感情が引き金となって元通りになってしまいます。

自分の中にもうひとりの別の自分がいて、心と体を支配されているような状態でした。

摂食障害および窃盗症――17年夏、初めてニュースで大きく報じられた〝一度目の万引きで逮捕されたのち、入院した下総精神医療センターで伝えられた私の病名です。

18歳で長距離選手として京セラに入社して以降、頻度の差はあっても、ずっとやめられずにいた食べ吐きと、その後、手を染めた万引き。

私は、必死にその事実を隠し、「世界の舞台で活躍したマラソン選手・原裕美子」を演じてきたように思います。

もちろん、そこには周囲に不幸と思われたくない、という小さなプライドもありました。

18年2月、前回の事件の執行猶予中に再び万引き事件を起こし、〝二度目の逮捕をされた私は、弁護士の後押しもあって「もう、弱さを隠して生きることはやめよう」と決心しました。

摂食障害も、窃盗症も、隠そうとすればするほど、抱え切れなくなって、自分を追いつめていました。

病気を隠すことよりも、克服することにエネルギーを使うことで、

こんな私でも誰かの役に立てるのかもしれない、と初めて思えたのです。(プロローグより)


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