夜、寝る前に読みたい宇宙の話 野田祥代 (著) 草思社 (2022/4/25) 1,540円

私たちは実は相当な超速で宇宙を旅し続けている

あなたの年齢は太陽のまわりを旅してきた回数

日々小さなことで悩んだり、いがみ合ったり、イライラしてしまう私たち。

そんな人間を「宇宙からの視点」で見つめ直してみると?

宇宙誕生から今にいたるまでの悠遠な時の流れを、「あいプラネット代表」の野田祥代氏が平易な表現でつづった『夜、寝る前に読みたい宇宙の話』から一部抜粋します

地球の自転、公転の速度を知っていますか?

はじめに、あなたの年齢をどこかに書きとめておいてください。

あなたの年齢にまつわる話をしたいと思います。

地球は、「宇宙船地球号」といわれることがあります。

外との行き来ができない船の上では、乗組員たちは水や食料などの資源を上手にやりくりしながら海を渡ります。

私たちは、かぎられた資源をもつ地球に乗って宇宙空間を旅していますから、まさに同じ状態といえるでしょう。

地球はあなたを乗せて1日1回転のペースでコマのようにまわりながら(自転)、太陽のまわりを1年かけてまわっています(公転)。

自転のスピードは赤道あたりで時速1700㎞、公転は時速10万㎞にもなります。

これもあまりピンときませんから、私たちが知っているいろいろなスピードと比べてみましょう。

ぜひイメージしてみてください。

地球上の生物の中で、人間だけが「直立二足歩行」をします。

直立二足歩行は、二本足で、しかも頭が上に載っている(ニワトリやカラスのように頭が前に出ていない)歩き方です。

一般に人の歩く速さは時速4㎞です。

“人類最速のスプリンター”といわれたウサイン・ボルトさんのトップスピードは、時速45㎞ほど。

自転車(平均時速15㎞)よりかなり速いスピードです。

でも、直立二足歩行には大きな欠点があるといいます。

動物としては走るのが遅いのです。

野生動物なら格好の獲物。

抵抗するための毒も立派な牙もトゲもないですから、簡単に捕食されてしまって生物としては死活問題です。

そんな人間は移動のための道具をつくりました。

自動車も船も飛行機も、人や物をより速く、より遠くへ運ぶための乗り物です。

自動車の場合、日本の高速道路での最高速度は時速100㎞。

新幹線なら、その3倍のおよそ時速300㎞です。あなたは、地方の駅のホームなどで新幹線があっという間に通り抜けていくのを見たことがあるでしょうか。

あまりのスピードに思わず体がのけぞってしまうかもしれませんが、地球が毎日くるくるとまわる自転スピードは、その新幹線のさらに6倍近い速さです。

さて、地球が太陽のまわりをまわる公転スピードは時速10万㎞。

先ほどの自転のさらに60倍もの速さです。

人がつくったもので勝負してみましょう。

時速3000㎞に達する戦闘機です。

これならボルトさんが9秒58で走り抜けた100m走を、たったの0.12秒で通り過ぎます。

ところが、地球の公転は、この戦闘機のさらに30倍以上。

やはりまったく歯が立ちません。

つまり、地球の自転と公転は、私たちの日常生活とはケタ違いの超高速で粛々と行われているのです。

地球は、宇宙空間を自然の法則にしたがって、46億年間、猛スピードで航行してきました。

あなたも私もたった今、このひた走る惑星に乗って宇宙空間を移動しているということになります。

たとえ寝ていても、ぼうっとしていても、どんなにぐうたらしていても、生きているかぎり地球に乗って、全速力で広大な宇宙空間を走り続けるのです。

あなたは太陽のまわりを何回まわりましたか?

地球は太陽のまわりを1年でひとまわりしますから、私たちは、

「地球に乗ってトシの数だけ太陽のまわりをまわった」

ともいえます。

この章のはじめに、あなたに年齢を書きとめてくださいとお願いしました。

さあ、あなたは何回まわりましたか?

宇宙のお話の会でこう尋ねると、中高年のみなさまから「ふっふ」と、やや自虐的な笑いが起きます。

私も同志なので一緒に「ふっふ」とやるわけですが、対照的なのは子どもたちです。

大きな声で自分の年齢を教えてくれます。

でも本当は、大人だって子どもだって大きな声でいっていいはずです。

あなたはあなたの年齢の数だけ、地球に乗って太陽のまわりをまわってきたのです。

広く冷たい宇宙空間を、太陽から1億5000万㎞の軌道に乗り、一周9億㎞の道のりを、時速10万㎞もの猛スピードで。

100年、100回でメンバーは総入れ替え

大切な人と、あるいは世界中のものと一緒にまわってきたのです。

地球に生まれてくるということは、同じ時代のものたちと一緒に太陽のまわりを旅する回数をもらってきた、といえるかもしれません。

2022年、新年の新聞に119歳の日本女性が世界一のご長寿として紹介されました。

彼女は「存命中の世界最高齢」としてギネス記録をもっています。

WHO(世界保健機関)が発表した2021年版の資料によると、世界全体の平均寿命は73歳、日本は一番の長寿国で84歳くらい、とのことです。

つまり、だいたい100年、いいかえると地球が太陽のまわりを100回ほどまわったところで、地球上のメンバーは総入れ替えします。

今生きている人は誰ひとりいなくなって、今はまだ生まれていない人たちがこの大地に立つ世界に変わっているのです。

あなたに焦点を合わせれば、どんなに大きな悩みがあってもそれは100年以上は続かない、ということでもあります。

地球は46億歳ですから、これまで46億回ほどまわったでしょうか。

たった今も、入れ替わっていくいろんな生き物を乗せながら、宇宙の自然法則にしたがって淡々と太陽のまわりをまわり続けています。

地球の46億回に比べると、あなたがまわる回数は決して多いとはいえません。

でもその回数は、あなたの命のある時間、同じ時代のものと出会って、この世界とかかわってきた時間です。

次に年齢を尋ねられたら、大きな声で堂々と答えたらいいのです。

私たち個人に与えられた回数は、多くてせいぜい100回分。

個人の時間がこれを大きく超えることは、現時点では生物学的に難しいでしょう。

いっぽうで、個人を超越する、おもしろいチャレンジもあります。

「ロングプレイヤー」という楽曲は、世界で一番長い曲として知られています。

1000年後に向けて演奏が続いている

演奏が始まったのは2000年1月1日、終わるのは1000年後の2999年12月31日の予定です。

もとになる曲をコンピュータがアレンジし続けて演奏しているのですが、予定の1000年後に演奏が終わったら、また最初に戻って2巡目が始まるのだそうです。

なんだか壮大な音楽のチャレンジですね。

私は映像でその様子を見たことがあります。

荘厳な音を聞きながら瞑想する人、静かにたたずむ人、いろんな人がいて、それぞれが「今この瞬間」を味わいながら、決して出会うことのない未来の世界に心を寄せているようでした。

ロングプレイヤーの1回目が終わる世界は、私たちの数十世代後の人たちの時代です。

彼らが目にする風景は、いったいどんなものになっているのでしょうか。

地球はその日もまわっているでしょうし、その後もまわり続けるでしょう。

数えきれない命を見送りながら、それでもただ淡々と、自然の法則に忠実に、地球最期の瞬間がやってくるその時まで。

夜、寝る前に読みたい宇宙の話 野田祥代 (著) 草思社 (2022/4/25) 1,540円

夜、寝る前に心の宇宙旅行をしませんか?

あなたは今、この瞬間も時速10万キロでひた走る小さな岩の惑星に乗ったまま、太陽系ごと、そして夜空の星ごと、銀河系の円盤の中をただよいながらまわっているところです。

本書は、日々小さなことで悩んだり、いがみ合ったり、イライラしてしまう私たち人間を、「宇宙からの視点」で見つめ直し、その存在のはかなさ、かけがえのなさ、そしてもがきながらも、つねに前に進んでいこうとする誇りの高さを再認識するための本です。

本書を通じ、宇宙誕生から今にいたるまでの悠遠な時の流れを体感することで、今この瞬間に生を受けていることの意味や、本当に大切にすべき「あたりまえの日常」について気付かされるでしょう。

この本は、宇宙について興味はあるけれど、科学知識があまりないという方にも気楽に読んでいただけるよう、全編にわたり平易な表現が使われています。

宇宙の基礎知識も身に付きます。

<目次より>
【宇宙に出て大地を思う】
宇宙へ―星空に出かけてみたら/水と空気と命のあたりまえ1―水/水と空気と命のあたりまえ2―空気と生命

【地上の星空】
夜空に描くイラスト―星座は深い世界の手前で輝く

【太陽と月のある世界】
地球のこと―年齢は、太陽のまわりを旅した回数/月のこと1―月の意外な生い立ち/月のこと2 ―月の満ち欠けと月食/太陽のこと―日の昇る惑星

【宇宙の時間割】
遠くを見て、過去を知る―猛ダッシュ編―/遠くを見て、自分を知る―宇宙カレンダー編

【空からのおくりもの】
流れ星にねがいを―暗闇で自分と出会う時間/空から岩が落ちてくる1―宇宙をただよう巨大岩/空から岩が落ちてくる2―あなたにできること

【人生はあなたが主人公の物語】
宇宙から見た自分―科学がくれた俯瞰術

【星のふしぎ 地球のふしぎ 命のふしぎ】
星のさだめ―ほどよい太陽、ほどよい地球、本を読む私/地球と人のさだめ―地球と人の未来/星と人の往還―星は死んで人になる?

【縦方向への旅】
現実と空想の月旅行―誰とどんな旅をしましょうか

【心の宇宙旅行】
広い世界へ(前編)―太陽系の外への旅/広い世界へ(中編)―銀河系への旅/広い世界へ(後編)―未知への旅

【それでもまわる地球の上で】
星の下でつなぐ知恵と工夫―知恵のリレー/ひとつ空の下で―Under One Sky

著者について
野田祥代(のだ・さちよ)
1971年生まれ、愛知県春日井市出身。名古屋大学理学部物理学科卒、同大学院修了、博士(理学)。国立天文台天文データセンター勤務後、2018年より「あいプラネット」代表。理系文系の垣根をゆるやかにつなぐ「体験型リベラルアーツ?講座“はてなアカデミー”」エグゼクティブ。親子グループ「やとっこ天文あそび」、立場を越えて身近な宇宙を知ってもらう「西東京から宇宙を見よう」などのプロジェクトを手掛ける。「つたえよう 宇宙のふしぎ 星のふしぎ 地球のふしぎ 命のふしぎ」を合言葉に親子向け、大人向けの宇宙イベントを各地へ届けている。

ネットの声

「優しい語り口が初心に戻れて星空案内人として必読の本だと思います。」

「非常に分かりやすい解説で、天文学に疎い方でも読みやすい一冊だと思いました。ただ、途中の「隕石衝突」の章は、寝る前に読むには少し恐いかな…という感じです。しかし全体的には面白いのでおすすめできます。」

「天文の学問の話だけでなく、人間の心の面の話と結び付けながら書き進めており、飽きずに読めるようになっている。改めて宇宙の時間の長さや宇宙の広さなどを感じられるようになっている。」

 

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