三菱スペースジェットの開発難航…これからどうなるの?

開発難航の「三菱スペースジェット」 カリスマなき体制で、日の丸の翼は消えゆくのか

日本の航空機製造産業は世界最高レベルでしたが、戦後、連合国軍総司令部(GHQ)によって解体されました。

三菱スペースジェット(MSJ)はそんな技術を取り戻し、再び世界に羽ばたくことを目指しているものの、開発が難航しています。

三菱スペースジェットの役割

航空機メーカーのボンバルディア(カナダ)やエンブラエル(ブラジル)がMSJのような航空機を開発する背景には、地域間交通の重要性の高まりがあります。

乗り換えなしで、地方空港から地方空港へフライトしたいというニーズが多いのです。

航空機の運航形態には

・ハブ&スポーク
・ポイントトゥポイント

の2種類があります。

ハブ&スポークは大型機でハブ空港に乗り入れ、そこから乗り換えをして目的地の空港へ向かう形態で、主に欧州で採用されています。

一方、ポイントトゥポイントは、ハブ空港を経由せず直接目的地の空港へ向かう形態で、主に米国で採用されています。

地域間交通には、後者が適しています。

ふたつの運航形態のうち、ポイントトゥポイントのフライトに適しているのが、MSJのようなリージョナルジェット(客席数が50~100程度の小型ジェット機)と呼ばれる機種です。

小型ながら一定の座席数があり、高速で乗客を輸送することができるため、ポイントトゥポイントのフライトに適しているのです。

MSJの可能性

リージョナルジェットは、今後20年間での需要が5000機以上と見込まれています。

リージョナルジェット市場の可能性、また日本の航空機製造産業の活性化という意味でも、MSJの果たす役割は大きいのです。

MSJは新型エンジンと先進空力技術によって、燃費を従来機より20%以上削減しており、完成すれば競争力のある機体となります。

リージョナルジェットの分野では、長らくボンバルディアとエンブラエルの2強体制が続いてきました。

しかし2020年6月、三菱重工がボンバルディア社からリージョナルジェットの保守・サービス事業を買収したことで、ライバルは実質的にエンブラエル1社のみとなりました。

これはMSJにとって追い風といえるでしょう。

受注状況も好調です。

ローンチカスタマー(完成した機体が最初に納入されるエアライン)であるANAを始め、米国の航空会社を中心に総受注数は2020年2月時点で285機となっています。

開発の現状とは

そんな有望株であるMSJだが、開発は難航しています。

三菱重工は2021年中期経営計画のなかで、完成機事業の継続的な取組を推進するとしながらも、MSJ開発については開発状況と市場環境を踏まえ

「いったん立ち止まる」

としているのです。

事実上の開発凍結といっていいでしょう。

主な要因は、以下の通りです。

・開発費の膨張(当初見込み1800億円。現在1兆円)
・新型コロナによる航空機需要の低迷

繰り返される設計変更、型式証明の取得が難航しているため、巨額の開発費が必要となりました。

開発費は2021年からの3年間で200億円まで圧縮。

直近の3年間は3700億円だったため、95%減となります。

現状、型式証明の取得作業は進めているとのことです。

うまくいかないワケ

航空機開発は非常に時間を要するため、けん引役の存在が重要です。

しかし、開発主体である三菱航空機(愛知県豊山町)は社長が6代目、チーフエンジニアが5代目と、頻繁に交代しているのです。

これは異例といっていいでしょう。

国産旅客機として代表的なホンダジェット、YS-11の開発にはカリスマ技術者と呼ばれるリーダーが存在しました。

ホンダジェットの場合、それは藤野道格(みちまさ)氏で、日本で技術経営を実践した代表的な人物です。

藤野氏はホンダエアクラフトカンパニーの社長として、また技術者として同機を開発し、大成功を収めました。

そして、開発開始からローンチまでの30年間、ホンダジェット開発のリーダーを務めたのです。

YS-11の場合は「五人のサムライ」と呼ばれる技術者が支えました。

そのなかでも特に知られている技術者は堀越二郎氏で、宮崎駿監督の映画「風立ちぬ」の主人公としても知られています。

堀越氏は三菱零式艦上戦闘機(ゼロ戦)の主任設計者で、戦前の航空機開発を支えた技術者がYS-11開発を成功へと導いたのです。

残念ながら、MSJにはこのような強烈なカリスマ性をもった開発人材がいません。

開発は多くの人がチームを組んで行われますが、新型航空機の開発という極めて複雑なプロジェクトには、藤野氏や堀越氏のような他者とは一線を画す人物が不可欠なのです。

前述の三菱航空機の幹部交代を鑑みると、開発が難航していることもうなずけます。

三菱重工は製造業のコングロマリット(複合企業)で、モノづくりに関する多くの技術・人材を抱えているのですが、各地の事業所ごとに独立した企業のようになっています。

カリスマの不在を補うためには、事業所の垣根を越えなければいけません。

また、「自前主義」にこだわらず、量産に成功したホンダとの提携など、大胆な事業の見直しが求められます。

車のEV化や自動運転の台頭で部品点数は減少し、自動車をはじめとする製造業は窮地に立たされています。

自動車の部品点数をはるかに上回る航空機の量産が実現できれば、日本の産業界に与えるインパクトは非常に大きいといっていいでしょう。

そういった意味でMSJは救世主となります。

日の丸の翼が1日でも早く日本、そして世界の空に羽ばたくことを期待したいところです。

ネットの声

「一回開発して放置してノウハウ紛失、経験値リセットが一番勿体無い。
YS-11のあとに続かなかったことで全ての経験値がリセットされ、MSJ開発時にYS-11開発時の相対的に低い安全基準をそのまま流用して開発するから頓挫してしまった。官向け機体とは異なることを軽視していたのも原因となる。
先日はイプシロンが打ち上げに失敗したが、それで歩みを止めてはならない。MSJも少数生産の赤字事業になって良いから型式証明までは最低限取得したい。それが次につながるはずだ。ホンダジェットは今でこそ成功者扱いされているが、開発期間は30年に及び決して順風満帆ではなかった。それだけ時間が掛かるものであり、MSJもじっくり開発すれば良い。」

「細々とでも型式認定取得のための開発作業を進めて欲しい。どこかでブレークスルー出来るかも知れないから。
民間機のことを知らなさ過ぎたということだとは思うが、まだ開発フェーズで成否不明と認識しておくべき段階にも拘わらず、実績作りが必須として受注商談を進め過ぎたため技術・工作・営業がバラバラになって無駄金を生んだこと、実力・到達点・冷静な見通しをしないまま外国人を含めた大量人材投入に走ってしまったこと、出来ないはずがないというトップ・実力OB・航空一家の過信が度々のリーダーの更迭や人心離反を招くことに繋がったこと等も失敗の原因だと思う。判断ミスで多額の社損を醸した当時のトップが経営層に残って多額の禄を食んでいるところも三菱さんのおかしい点だと感じる。」

「S-11の主任設計者が堀越二郎というのは間違っています。正確には「輸送機設計研究会」という設計会議のリーダー的存在だっただけです。YS-11の本設計のときは三菱重工から東條輝夫という堀越二郎の零戦時代の部下をリーダーとして招聘してきました。
だから、YS-11のリーダーは東條さんです。
確かに、MSJのプロジェクトはリーダーがいない(泣)。これは投機的プロジェクトとしてはあり得ないやり方をしています。三菱重工は三菱航空機(MSJの開発・生産を請け負う子会社)を三菱重工の一出向先としか考えていないんだ(怒)。」

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