維持費だけで年間24億円…早くも負の遺産となった国立競技場の迷走

維持費だけで毎年24億円、コンサート会場としてもいまいち…やっぱり“負の遺産”と化した国立競技場の迷走

「20年大会のレガシーとして、国立競技場はですね、現状のまましばらく使うことの方が国民の理解を得れるんじゃないか」

萩生田光一文部科学相(当時)は、2021年9月7日の会見でこう発言したうえで、東京2020オリンピック・パラリンピック閉会後の国立競技場に、サブトラックの新設を検討していることを明らかにしました。

本来、国立競技場は常設のサブトラックを持たないため、世界陸連(WA)などが開く国際大会の施設基準を満たさず、公認記録が得られない陸上競技場です。

オリパラ期間中は国立競技場近くの神宮外苑内に臨時のサブトラックを造って対応しましたが、大会後は土地再開発のため取り壊されることになっていました。

そのため、新型コロナウイルス感染拡大のもとで強行開催されたオリパラの競技場、開閉会式場として使われた国立競技場は大会後、陸上競技のトラック部分を撤去したうえで、ラグビーやサッカーなどのための球技場とする方針だったのです。

この点は、政府が17年11月、関係閣僚会議で承認しています。

“ザハ案撤回”で汎用性を失った国立競技場

国立競技場は、13年のオリンピック招致時点では、ザハ・ハディド氏のデザイン案で建設を予定していました。

しかし、建設費が予定より約1000億円高い約2500億円かかることが後に判明します。

国民からの激しい批判を受けて、安倍晋三首相(当時)が白紙撤回しました。

デザイン変更により、開閉式の屋根や冷房をやめた結果、建設費は抑えられました。

その一方で、半露天の施設となったことで、コンサートの音漏れや天候対策に不備が生じ、大会後の施設の運営・使用において汎用性を失ってしまったのです。

さらに、肝心のサブトラック自体は、オリンピック招致前の12年時点で既に、国や都、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)が常設としない方針を決めていました。

もともと、ラグビーワールドカップ2019の会場として計画を進めた経緯もあって、当時の都やJSCの公文書では、「20年にオリンピックが来たら、その時にはサブトラックは必要だが、必ずしも恒久的な施設である条件はないので、サブトラックの場所を決めなくても都市計画を行うことは可能」(当時の都技監)という認識だったのです。

別の機会に、都の幹部と東京2020組織委員会会長を務めた森喜朗元首相らが、「サブトラックは競技場敷地の外」と方針を話し合ったことも当時の公文書に残っています。

つまり、政府も都も端から“フルスペック”の国立競技場を造る気はなく、その主な目的は、五輪開催に便乗した神宮外苑一帯の再開発だったのです。

このように、陸上競技場としてはオリパラ限りで使い捨てられる予定だったのが国立競技場の現実です。

しかも、維持費は今後50年間で毎年24億円かかることがわかっています。

サッカーやラグビーの試合で毎回、会場を満員にするのは現実的ではありません。

また、運営権の売却を目指しているものの、前述のようにコンサート会場としても利用しにくいこともあって、運営主体として名乗りを上げる民間企業はまだいない状況です。

この国のスポーツ行政の正体

では、建設前から常設でなかったサブトラックを今になって、政府が設置を検討しているのはなぜなのでしょうか。

WAのセバスチャン・コー会長が20年10月、大会前に来日し、国立競技場を視察しました。

その際、「世界選手権を日本に持ってきたい。できれば国立競技場で開催したいと思っている」と述べたのです。

萩生田文科相もその翌日、「2025年に陸上の世界選手権を東京都で開催したい」と、コー会長から伝えられたと明かしました。

これを受け、菅義偉首相(当時)が、萩生田文科相に検討を指示。

菅首相の事実上の退陣表明後、萩生田文科相が記者から問われ、改めて検討していることを再確認したのが、冒頭の一幕です。

この泥縄式の対応に追従するかのように、日本陸上競技連盟が25年世界選手権の日本招致をWAに申請したと伝えられました。

WAは22年3月に開催地を決める予定で、国立競技場で開くなら、新たなサブトラック建設は必須です。

その原資は税金です。

オリンピックを土地再開発の推進力に利用し、その方便として不完全な国立競技場に建て替えておきながら、今度は世界陸上という興行にすがり、納税者に尻拭いをさせて恥じないのです。

この国の貧しいスポーツ行政の正体が国立競技場のサブトラック問題に集約されています。

「負の遺産」は国立競技場だけではない

オリパラ後の「負の遺産」となるのは国立競技場だけではありません。

水泳会場の「東京アクアティクスセンター」、ボート等会場の「海の森水上競技場」、バレーボール等会場の「有明アリーナ」、カヌー競技場の「カヌー・スラロームセンター」、ホッケー会場の「大井ホッケー競技場」、アーチェリー会場の「夢の島公園アーチェリー場」と、国立競技場も含めた7競技場の年間経費は50億円にのぼるのです。

しかし、有明アリーナ以外の施設は年間収支が赤字と予想されています。

7施設で総額約2900億円かけた結果が毎年の赤字なのです。

民間企業でこのような設備投資を行えば、確実に破綻するでしょう。

政府や都は税金だからこそ、無駄に使っているとしか言えません。

いい加減な見通しで国立競技場を建設し、予算をいったん見直した後に、改めてサブトラックを整備するのは、まさに「朝三暮四」の故事で示された物事の本質を見抜けないサルと同じです。

オリパラ終了後、報道各社が世論調査を行い、新型コロナ禍の下で強行開催されたオリパラを「よかった」と思う国民が6割にのぼる結果は、この国の悲しい現実でもあるのです。

ネットの声

「いっその事、壊して更地にしてから将来を見据えた有効活用がいいんじゃないかな。維持費が年間24億って考えられない金額。あべのマスクも保管料だけで相当支払っていたみたいだけど、こういう無駄ってたくさんありそう。一般企業ならそういう無駄の排除から取り組むと思いますが。」

「一つ一つのことでなくオリンピック招致というのは、そういうことを承知でやる必要がある。レガシーといっているのは、後世に残る多大な負債の意味である。」

「木をふんだんに使ったのは自然を感じられる施設になりましたが、5年10年後の維持管理が大変です。防腐処理したとしても、取り換えが必要となり屋根など高所なんかどうやってやるんだろうと思う。補修の間施設利用できない。」

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