あきらめない男 重度障害を負った医師・原田雷太郎 長田昭二 (著) 文藝春秋 (2022/4/26) 1,870円

新潟県上越市にある介護老人健康施設「サンクス米山」で施設長を務める医師がいる。

原田雷太郎。

今年還暦を迎える内科医だ。

彼は約100人いる入居者の健康管理を一手に引き受けている。

地方にある老健施設の入居者は、持病や認知症の度合いが強い人が多い。

また、退所して家族の元に帰る人も少なく、施設で看取られるケースが多いという。

そういう環境のなか、一人ひとりの様々な状況を把握し、健康な日常、幸せな最期を迎えられるように、原田は毎日、真摯に患者と向き合う。

これだけ聞くと、やさしい真面目な普通のお医者さん像が浮かぶ。

たしかに原田は真面目でやさしいお医者さんだ。

ある一点を除いては……。

原田は13年前、46歳のとき、持病である糖尿病の合併症で突然意識を失い、自宅の階段から転落する。

その結果、脊椎を損傷し、首から下が動かなくなる。

わずかに動くのは右手の人差し指と親指だけという重度障害者となったのだ。

今でも原田の首から下は動くことはない。

普通なら、原田のほうが障害者施設に入所し、一生、寝たきりで暮らすはずだった。

しかし、原田は「あきらめなかった」。

原田は、重度の障害を負っても、社会人として生きること、そして、医師として生きることをあきらめなかった。

幸いないことに、頭脳の機能は失われなかった。

昔と違って、失われた身体の機能をサポートしてくれるテクノロジーはかなり進歩している。

ハイテクの車いす、ノートパソコンなどを駆使すれば、内科医として生きていくことは可能なはずだ。

原田は苦しいリハビリを乗り越え、医師として現場に復帰する。

もちろん、介助は必要だ。

ベッドから車いすに移るだけでも3人の力が要る。

そうした援助には深い感謝の気持ちを持っている。

しかし、患者さんにとってもっともよき医師となっている。

これは奇跡の物語ではない。

また、障害者と社会といった大きなテーマを扱ったものでもない。

「あきらめない男」の努力のドキュメントなのだ。


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