お殿様の定年後 安藤優一郎 (著) 日本経済新聞出版 (2021/3/9)

ご隠居様、それではお金がいくらあっても足りませぬ

著述に、文化振興に、寄席、歌舞伎……

家督を譲ったお殿様たちの老後の愉しみとは

江戸時代の大名には今で言う定年はなく、みずから出処進退を決められた。

家督を譲り隠居するのは当人の意思次第だったわけだが、その後、どんな生活を送っていたのか。

江戸時代は泰平の世。

高齢化が非常に進んだ社会だった。

そのうえ大名は充実した医療も受けられ、隠居後の長い人生を謳歌できる資産もあった。

隠居すると、現役時代のように政治向きに関与することはほとんどなく、著述活動のほか、文化財の収集や保護などに力を入れるのが通例で、パトロンとして期待した文化人も集まってくる。

そんな文化人のサロンをつくり文化事業を展開した。

現役時代にはできなかった娯楽に興じるお殿様も多かった。

隠居後は江戸で余生を送るのが定番で、上屋敷を跡継ぎに譲り、巨大庭園のある中屋敷や下屋敷が生活の拠点となる。

屋敷外での行動も束縛がなくなり、歌舞伎小屋に連日通う事例もみられた。

江戸は日本最大の娯楽街であり、お殿様たちが江戸での隠居生活に憧れる大きな理由にもなっていた。

文化や娯楽に投じた費用が巨額にのぼり、藩の財政を傾かせる要因となった事例まである。

例えば、徳川光圀が端緒を付けた『大日本史』編纂は水戸藩の財政に重くのしかかった。

また、『大日本史』編纂を通じて創り上げられた水戸学は歴史を動かす原動力となったことは、はからずも幕末の歴史が証明している。政治への影響力も見逃せないのである。

本書は、徳川(水戸)光圀、松平定信ら5人のお殿様の隠居後のアクティブな活動を読み解くことで、知られざる江戸時代の姿を浮かび上がらせる歴史ノンフィクションである。

【目 次】
プロローグ 隠居という名の「定年」制

第1章 大名のご公務――江戸と国元の二重生活

第2章 水戸藩主徳川光圀――水戸学を創った名君の実像と虚像

第3章 大和郡山藩主柳沢信鴻――庭いじりと歌舞伎の日々

第4章 白河藩主松平定信――寛政改革後の多彩な文化事業

第5章 肥前平戸藩主松浦静山――『甲子夜話』執筆に捧げた余生

第6章 薩摩藩主島津重豪――蘭癖大名による文明開化

エピローグ 幕末の政局を動かした隠居大名

「題名は『お殿様の定年後』だが、公職を辞めた後や隠居後等の「定年後」だけを扱ったものではなく、五人のお殿様のお殿様としての人生全体を、定年後を中心に4~50ページでコンパクトにまとめたものである。特に徳川光圀や松平定信については、教科書に出てくる以外の知らない一面が一杯出てきて、とても面白かった。ただ、徳川光圀については、水戸黄門の”お話”がまったく出てこないし、松平定信については、田沼意次との確執があまり出てこない。その点がやや物足りなかった。」

「江戸時代のちょっと裕福な藩で40代で隠居して下屋敷の庭園を眺めつつ、仲良しの他藩の隠居や出入り商人達と酒を飲んだり句会をしたり、芝居見物に行ったり相撲を観たり名物食べたりなんて最高の人生ではないですか。羨ましい。」


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