ポワロと私 デビッド・スーシェ (著), ジェフリー・ワンセル (著), 小山正 (解説), 高尾菜つこ (翻訳) 原書房 (2022/10/24) 2,970円

スーシェの俳優魂に触れ、名作ドラマの舞台裏を知るうちに――ポワロの回想録を読んでいる気分になった。

ミステリーの女王アガサ・クリスティーが生んだ名探偵エルキュール・ポワロ。

世界中で愛され続けているのは小説のすばらしさはもとより、ドラマの力が大きかった。

ポワロ俳優として著者が過ごした四半世紀を余すところなく綴る。

アガサにとってそうだったように、ポワロは私にとっても現実の存在だった――

ときには少しイライラさせられることがあっても、彼は偉大な探偵であり、非凡な男だった。

アガサがポワロ物として33の小説と50を超える短編、1本の戯曲を書き、彼をシャーロック・ホームズと並ぶ世界一有名な架空の探偵にしたとき、ポワロが彼女の人生の一部となっていたに違いないように、彼は私の人生の一部となっていた。(本文より)

世界中で約一〇億人が視聴したとされ、今なお愛され続ける傑作ドラマ『名探偵ポワロ』。

本書は、そのポワロを一九八八年から二〇一三年まで、四半世紀にわたって演じたイギリスの俳優、デビッド・スーシェの回想録である。

「役者は作家の忠実な僕であるべき」との信念から、クリスティーの原作を徹底的に読み込み、真のポワロ像を追求したスーシェは、ただ滑稽に描かれるだけだった従来のポワロに深い人間性をもたらした。

劇中でポワロが風邪を引けば、必ずスーシェも風邪を引いたというほど、まさにポワロと一心同体となったスーシェは、ときに演技をめぐって監督と衝突しながらも、「ポワロの守護者」として、最後まで原作のイメージを守り抜いた。

第一シリーズ・第一話『コックを捜せ』でテレビに初登場して以来、制作チームの変更や方向性の転換などを経て、第一三シリーズ・最終話までの全七〇作を演じきったスーシェ。

彼のこの功績はイギリス王室も認めるところで、スーシェは二〇〇二年に大英帝国四等勲位(OBE)、二〇一一年に大英帝国三等勲位(CBE)、そして二〇二〇年にはナイトの称号を受けている。

実際、『名探偵ポワロ』は王室でも人気だったようで、スーシェはバッキンガム宮殿での女王主催の昼食会に招かれた。その席で、エジンバラ公から直々にマンゴーの食べ方を教わったという驚きのエピソードは、第三シリーズ・第八話『盗まれたロイヤル・ルビー』にも生かされている。

■目次■

序章

第1章 私ならごめんだ
第2章 決してポワロを笑ってはならない
第3章 悪いけど、そのスーツを着る予定はない
第4章 平凡すぎるか、奇抜すぎるかのどちらかだろう
第5章 まるで木槌で頭を殴られたかのよう
第6章 彼にもっと人間的になってほしかった
第7章 アガサの創作の守護者になったと感じていた
第8章 テレビ界の最も意外なイイ男……マンゴーマン
第9章 どんなことにも決して自惚れないようにすることだ
第10章 私はたぶん一年、あるいは永遠に彼と別れることになるかもしれない
第11章 まさにポワロとは大違い
第12章 何か事件があったのではありませんか?
第13章 そもそも私は彼がいかに希少な存在かということを忘れていた
第14章 転機の一つ――デイム・アガサに捧げるレガシー
第15章 私が書いた最悪の本
第16章 一体どうしてまたこんな忌々しい、もったいぶった、厄介な小男を生み出してしまったんだろう
第17章 あの嫌らしいヘアネットや口髭ネットはつけないでしょうね?
第18章 過去の話ではありません、決して
第19章 でも何よりも皆さん全員に、オ・ルボワール&メルシー・ボク!

謝辞
解説 永遠のポワロ、かく語りき 小山正
訳者あとがき
付録 ポワロの特徴リスト
索引

■著者■
デビッド・スーシェ David Suchet
1946年生まれ。イギリスの俳優。ロイヤル・シェイクスピア劇団のアソシエイト・アーティストでもある。数多くの舞台に出演し、デビッド・マメットの戯曲『オレアナ』で大学教授ジョンを、ピーター・シェイファーの戯曲『アマデウス』で作曲家サリエリを好演。テレビでは、アンソニー・トロロープの小説『ザ・ウェイ・ウィー・リブ・ナウ(The Way We Live Now)』のドラマ化でユダヤ人銀行家オーガスタス・メルモットを演じたほか、メディア王ロバート・マクスウェルの役でも高く評価され、賞を受賞。2011年、演劇への貢献により大英帝国三等勲位(CBE)を受勲。本書は初の著作、2019年には『Behind the Lens: My Life(レンズを通して:わが人生)』を上梓。熱心な写真家としても知られ、妻と二人の子供を持つ。

ジェフリー・ワンセル Geoffrey Wansell
イギリスの作家。俳優ケーリー・グラント、億万長者ジェームズ・ゴールドスミス、劇作家テレンス・ラティガンなどの伝記を手がける。ロンドンのギャリック・クラブの公認歴史作家。ジャーナリストとしては『タイムズ』『オブサーバー』『サンデー・テレグラフ』『デイリー・メール』の各紙をはじめ、国内外の多くの新聞・雑誌に寄稿。邦訳書に『恐怖の館:殺人鬼フレデリック・ウェストの生涯』(飯島宏訳、新潮社)がある。
デビッド・スーシェとは、自身がエグゼクティブ・プロデューサーを務めた映画『鯨が来た時』にスーシェが出演して以来の親友。


(↑クリックするとAmazonのサイトへジャンプします)

 

おすすめの記事