スマホ認知症に気をつけて!スマホ依存症のその先に

「スマホ認知症」30代にも忍び寄るあぶない実態

「人の名前が出てこない」「うっかりミスが増えた」

「だらだらスマホ」や「ながらスマホ」の生活によって、スマホ依存になる人が少なくありません。

スマホ依存は脳を疲れさせ(=脳過労)、さまざまな身体の不調を誘発することがあります。

例えば、認知症に似た状態に陥るのが「スマホ認知症」です。

日本認知症学会専門医・指導医で『スマホ脳の処方箋』の著者・奥村歩氏が、「スマホ認知症」の症状や原因、解決方法について解説します。

「スマホ認知症」ではどんな症状が出る?

「スマホ認知症」とは、スマホ依存による脳過労で生活に支障が出る状態のことです。

認知症と同様に正式な病名ではなく、「スマホ認知症」は状態を表す呼称です。

両者の症状は似ているものの、原因や発症年齢が大きく異なります。

アルツハイマー型認知症はタンパク質の一種のアミロイドβがたまることで70歳ぐらいから発症することが多いのですが、「スマホ認知症」はスマホ依存による脳過労が原因で、30?50代でも多くの方が発症します。

「スマホ認知症」の中核症状は、次の5つです。

①遂行実行機能の低下
物事を段取りに従って、計画通りに作業を進める脳機能が低下します。

これまでできていた作業が困難になります。

例えば、1週間あれば完成していた書類作成がいつまで経っても満足できるレベルに到達しない。

いままでは2時間ほどで手際よく5品ほど完成していた料理を作れない、といった具合です。

②コミュニケーション能力の低下
コミュニケーションをとることが苦手になります。

気の利いた会話ができなくなったり相手に伝えたいことをうまく話せなかったりします。

相手に自分の意思が伝わらないだけではなく相手の話がストンと胸に落ちてきません。

伝えたいことを上手に相手に話すこともできません。

その結果、相手の真意も理解できなくなります。

また、相手に意思が伝わらないことがあります(*現代社会では相手も「スマホ認知症」の場合があります)。

③企画力・創造力が低下する
脳の機能が著しく低下するため、ひらめきやアイデアが生まれません。

仕事でも家事でもワンパターンから脱出できず、工夫やチャレンジができなくなります。

企画やレポートの作成をする際、インターネット検索で、「コピペ」して済ませるような傾向が生まれます。

④生活意欲の低下
スマホを操作する以外、何もやる気が起きなくなります。

これは、「スマホ認知症」がスマホ依存を合併していることに関係しています。

アルコール依存症の人がお酒を飲むことでしか快楽を得られなくなったり、ゲーム依存症の子供が不規則登校になったりするのと同じ病態です。

⑤体調不良・情緒不安定
心身の状態をコントロールしている前頭葉の機能が低下します。

脳の情報処理能力が低下するだけでなく、さまざまな体調不良や情緒不安定を引き起こします。

急にキレたり、ささいなことで泣き出したりします。

以上のように、「スマホ認知症」の中核症状は、一般に知られているアルツハイマー型認知症の症状ととてもよく似ています。

「人や物の名前が出てこない」「うっかりミスが増えた」など、日常生活に支障が出るものばかりです。

決して軽々しく扱うことはできません。

認知症とは違い、「スマホ認知症」は改善できる

「スマホ認知症」を患う受診者が増えたのは、10年ほど前から。

その多くは働き盛りの30?50代で、最近ではその傾向が顕著になっています。

診察に来た彼らは、次のような症状を訴えます。

「仕事で重要なアポがあることを忘れてしまった」

「大学時代の同級生の名前が思い出せない」

「スーパーに着いたら何を買いに来たか忘れてしまった」

しかし、これらの世代が認知症になるには年齢的にまだまだ早いです。

30~50代で認知症を発生することは滅多にありません。

直近10年間というと社会のデジタル化が加速した時期です。

その急速なデジタル化によって、膨大な情報量をいつでも手軽に入手できるスマホ生活が一般的になり、現代人の脳を疲労させています。

その結果、脳過労の状態になる方が増え、若いのに心配になるくらい「もの忘れ」を頻発する人が多くなっているのです。

記憶には「入力」→「整理・整頓」→「取り出し」という3つの過程があるのですが、脳過労になると「整理・整頓」が追いつかなくなります。

新しい情報が入ってくるのに「整理・整頓」がされないと、大切な情報が埋もれてしまい、肝心なときに必要な情報をうまく取り出せなくなります。

そうなると、仕事や家事などのシーンで情報処理能力が著しく低下し、患者さんが訴えるようなど忘れやうっかりミスといった「スマホ認知症」の症状が増えるのです。

そして恐ろしいことに、若年期に「スマホ認知症」を放置しておくと、老年期に認知症になるリスクがとても大きくなるという事実があります。

というのも、「スマホ認知症」はうつ病を合併しやすく、働き盛りにうつ病が2年以上持続すると、老年期にアルツハイマー型認知症になる危険が2倍になるデータがあるのです。

脳をメンテナンスすることが大切

しかし、ご心配なさらないでください。

認知症は進行・悪化する一方で治らないという定義が一般的ですが、「スマホ認知症」は生活習慣の改善で治ります。

アミロイドβが蓄積して脳が萎縮するわけではなく、脳過労によって記憶の「整理・整頓」に支障が出ているだけだからです。

「スマホ認知症」を治すには、ご自分の脳過労を自覚して、脳をメンテナンスすることが大切です。

具体的には、「ぼんやりタイム」を取り入れて、リズム運動を行うことで認知機能が回復(前回記事で紹介)して、ど忘れやうっかりミスなどの症状が改善されます。

スマホと正しく付き合いながら、健康的な生活を手に入れましょう。

スマホ脳の処方箋 奥村歩 (著) あさ出版 (2022/9/20) 1,540円

リモート生活が3年目をむかえ、ここにきて働き盛りの方々をふくめて体調不良をうったえる外来が増えているという。

その原因はズバリ、スマホ。認知症に似た症状であるが、「脳疲労(脳過労)」によるもの。その原因は「脳内エネルギー」の枯渇によるもの。

一昨年『スマホ脳』がベストセラーとなり、スマホと脳との関係が話題になった。しかし、その数年前から、著者はスマホと脳との関係を医学的見地から注目していた。

最近ではもの忘れはもちろん、「うつ」リスクが3倍になることを指摘している。

慢性化したコロナ禍状況もすぐには改善されないことから心理不安は長期することも予想され、ますますスマホ依存が高まりそうです。

とくに、性別を問わず、働き盛りの年代の来院もふえている。

スマホはビジネスでは手放せないものとなり、もはや、「いかにスマホと上手に付き合うか」という時代に入ったといえる。

本書では、普段の日常生活における、無理のない上手な付き合い方を「もの忘れ外来」「認知症・鬱」の専門家が解説する。

またうつは認知症に移行する可能性が大きいことも紹介するとともに、うつがいかに健康を害するリスクが高いこともお伝えする。

 

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