空飛ぶのになぜ“錨”つき? 飛行艇「US-2」の船っぽい“神装備”とは
海上自衛隊に配備されている国産の4発エンジン機US-2。新明和工業が独自開発した同機は、飛行機なのに「錨」が装備されているそう。
それ以外にも、飛行艇だからこそ必須の装備もあるといいます。
目次
島国日本だからこそ生み出せた「オリジナル飛行機」
世界第8位となる6852もの離島を持つ日本。そのうち有人島は約430島あり、まさに島国ともいえる我が国ですが、だからこそ必須といえる飛行機があります。
それが、海上自衛隊で運用されているUS-2です。
本機は、湖沼や海上でも発着できる性能を持つ「飛行艇」と呼ばれる機種ですが、ゆえに船のような性格も持っています。
どんな点が船と近似しているのか、見てみましょう。
海上自衛隊の飛行艇としての系譜を受け継ぐUS-2。機体そのもののデザインは初代PS-1から大きく変更されていない
本機は、湖沼や海上でも発着できる性能を持つ「飛行艇」と呼ばれる機種ですが、ゆえに船のような性格も持っています。
どんな点が船と近似しているのか、見てみましょう。
そもそも、US-2は神戸に拠点を置く新明和工業が開発した国産機です。
本来、海難救助は海上保安庁の職域と考え、その部分で一線を引いていた海上自衛隊ですが、組織の内外から海難救助への積極対応を求められた海上自衛隊は、当時の川西飛行機(現:新明和工業)からの打診を受け、実験用飛行艇の開発に動き出しました。
これは1950年代後半のことでした。
その後、海上自衛隊として初となる飛行艇PS-1が誕生しましたが、PS-1の運用はあくまでも対潜飛行艇。
つまり、敵の潜水艦を探し出すための飛行機として開発されていました。
ただ、PS-1は風などによって常に形を変える海面に発着するためトラブルが多く、運用に苦労がつきまとう機体でもありました。
同時期に導入された陸上機のP-2J対潜哨戒機が、退役まで無事故だったのに対して、PS-1は6機喪失、殉職者30名以上を出すなど、苦難の道を歩んでいた歴史もあります。
機体の開発に携わった技術者たちは、こうした犠牲を無駄にすまいと、より高性能で安全な機体を作り出すべく研究を続け、その結果として誕生したのが本格的な救難飛行艇であるUS-1だったといえるでしょう。
US-1の実績が後継機開発の端緒へ
US-1は水陸両用の救難飛行艇として開発された機体のため、機体のシルエットこそPS-1とほとんど変わらないものの、細かな改良が加えられており、操縦性能も大幅に向上しています。
エプロンを進むUS-2。陸地に設けられた空港や飛行場にも離着陸できるのは、US-2の大きなメリット
1976(昭和51)年に海上自衛隊岩国基地に所属する第71航空隊で運用が始まると、2017(平成29)年に完全退役するまで離島からの患者搬送768件、洋上救難141件の計909回を実施し、827名の命を救っています。
このような実績をUS-1が残したことで、満を持して開発されたのが同機の性能を大幅に引き上げたUS-2です。
2003(平成15)年に初飛行を遂げたUS-2は、2007(平成19)年からUS-1と同じ第71航空隊へと配備され、2022年10月までに試験機を含め8機が海上自衛隊に引き渡されました。
ただし、このうちの1機は、2015(平成17)年の離水失敗事故によって大破。
そのまま水没してしまったため、実任務に投入できるのは6機となっています。
US-1からUS-2へのおもな改良点は、フライバイワイヤ操縦システムの導入、旅客機並みのグラスコクピット化などのアビオニクス系統の進化、高高度を飛行することができるキャビン内の与圧、エンジンとプロペラを換装したことによるパワーアップと燃費向上などです。
一方で、パイロットたちが最も恩恵を受けていると話すのが航空機搭載型の波高計だそう。
この波高計は、海面の状況を記録し、自動的に波高や機体を安全に下せる波長などを解析するためのツールで、これを標準装備したことで、より安定した着水が可能になったということです。
また、短い距離でも離水に十分な揚力を得ることができるSTOL性能や、余計な海水を飛ばさないための工夫など、改良点を挙げると枚挙にいとまがありません。
US-2の「錨」その使い方
こうした性能を持つUS-2が飛行艇であると改めて実感させられる装備があります。それが「錨」です。
US-2が装備する錨。小型の物だが、機能的には十分で、これで問題ない
錨とは、船舶に装備されているもので、船を一定の場所に留めておくため綱や鎖をつけて海底に沈める錘(おもり)のことを指します。
では、なぜUS-2は錨を装備しているのでしょうか。それは海難現場に進出するUS-2ならではの理由からです。
US-2は洋上に着水したのち、側面の扉から救助用のゴムボートを発進させます。
この時、US-2が潮に流されてしまうのを防ぐために、この錨が使われるのです。
ただし、投錨は人力で行われるため、回収も手動になることから、引き上げる際には錨を機体に接触させないように気を付けなければなりません。
なお、原型機であるPS-1対潜飛行艇から錨は装備されており、US-1、そしてUS-2と「船」としての機能は継承されているといいます。
ちなみに、今年(2022年)の11月6日には約7年振りとなる国際観艦式が行われます。
もしかしたら、相模湾で行われる訓練展示の中で国産飛行艇US-2の離着水が披露されるかもしれません。
どういった形で公開されるのか、10月下旬時点での公式案内はまだありませんが、いずれにせよ国際観艦式を楽しむためのポイントとなりそうです。
ネットの声
「飛行艇という航空機は非常に扱いが面倒な航空機です。機体を浮体構造にしなければならない上に塩害対策も厳重にしなければなりません。加えて空力性能だけを追求する訳にも行きません。主翼は高翼構造という縛りも。一番の問題は離着水する水面が荒れると即運用が困難になるという事。結果、救難や消防等、非常に限られた用途にしか使われていません。US-2の様に波高3メートルなんて海に着水出来るなんて物は例外中の例外。機体性能と事故スレスレの厳しい訓練が可能にしている物です。」
「戦時中の名機二式大艇の流れを汲む、日本の優れた技術の結晶でしょうから、後継機にも期待したいし、安定的に開発出来るよう、政府は輸出への障害を取り除くよう力を入れて欲しい。」
「飛行艇用錨は日本独自のものではなく、古くから世界中で装備されてきたもの。例えば現在多くのヨットが装備しているダンフォースアンカーは、元々飛行艇用錨として開発されたものだった。
「着水した後は船」というのは古来から飛行艇乗りの常識なのだと思う。」