自衛官の訓練後の足裏写真に衝撃…「塹壕足」を防げない支給装備の悲惨
今年9月、一人の自衛官が訓練後に投稿した「雨に連日打たれながら演習を終えた塹壕足。
ストーブに当てたら二時間で治ります」という写真付きのツイッターが話題となりました。
目次
訓練後の自衛官の足が ツイッターで話題に
雨に連日打たれながら
演習を終えた塹壕足
ストーブに当てたら二時間で
治ります pic.twitter.com/NhS7WCflwL— J (@2gmdKe1lPM74dy7) September 4, 2022
ふやけて膨れ上がり、土踏まずは対照的に赤く腫れているように見える足裏写真は多くの人に衝撃を与え、数万人が「いいね」ボタンを押していました。
まず、過酷な訓練についてお疲れさまでしたと言いたいところ。
心配する人もいると思うので念のために言うと、投稿者の足はストーブに当てて短時間で治ったそうです。
塹壕(ざんごう)足とは、湿った冷たい靴下やブーツなどを長時間履いていることで起きる寒冷障害で、憂慮しなければならない足の疾患です。
第一次世界大戦時の冬の塹壕戦で、多くの兵士がこの塹壕足で亡くなりました。
塹壕足を患った兵士がベッドで並んで足を上げて乾かしている写真が米軍に残っています。
塹壕足にならないように軍人は、二人ペアになり互いにチェック義務を持たせたほど。
水に足を浸したまま作業を続けると塹壕足から、凍傷、低体温症などに陥り、死に至る場合もあるのです。
塹壕足とは長時間、冷水浸漬(しんせき)をうけると起きる「塹壕足炎」という凍傷に似た足の疾患です。
塹壕足は16度ほどの温度でも13時間程度で発生します。
症状としては、水ぶくれ、発赤、皮膚組織が死んではがれる潰瘍化などがあります。
この塹壕足をさらに放置すると、重大な健康被害を起こす危険があります。
冒頭のツイッター投稿のコメント欄には、同様の症状を経験した人たちが、靴を脱いだ時に納豆のような匂いがして大変だったなどと証言していました。
塹壕足は細菌の繁殖、細胞組織が破壊されるときに腐敗臭を出すようです。
最初はかゆみを感じるが、次第にしびれに変わり始めるのです。
筋肉や組織が浸軟すると痛みを伴い、真菌の感染症も同時に引き起こすことがあります。
さらに症状が進行して重症化すると、毛細血管が劣化し破壊されて、周りの筋肉組織の損傷や壊疽(えそ)を起こし、足を切断しなければならない状態にもなるのです。
お見苦しい写真ですが
治った後の写真を見てみたいという声がチラホラ見受けられましたので上げてみました pic.twitter.com/w1wBKaDsNX— J (@2gmdKe1lPM74dy7) September 5, 2022
防水浸透性素材の靴でも 塹壕足になる理由
自衛隊には、機能や目的に合わせた靴がいくつかあります。
冒頭の自衛官が履いていた靴は「半長靴」で、半長靴3型か戦闘靴2型かと思われます。
どちらの靴も防水浸透性素材のゴアテックスが内張りに使われています。
この素材は雨を通さないが、水蒸気は通すという仕組み。
一般の靴よりはかなり高機能だが、それでも塹壕足になってしまうのは驚きです。
防水浸透性素材を使った高機能な靴でも塹壕足になる理由の一つは靴の履き方にあります。
自衛隊は屋外の訓練時、裾をひっかけて転倒するリスクを避けるために、靴の中に迷彩服ズボンのすそを入れる。
そのため、衣服をつたって雨水や汗が靴の中に入り込んでしまうのです。
靴の中がちゃぷちゃぷと鳴るくらいまで水がたまると聞きます。
訓練中は他の人との歩調を合わせるため、靴の水を捨て靴下を替えることが難しく、我慢するしかありません。
他に靴が無いなら仕方ないと思われるかもしれませんが、自衛隊にはさらに高機能の靴があります。
島嶼(とうしょ)奪還作戦の要となる水陸機動団などの部隊に支給される「戦闘靴 水陸装甲用」です。
米軍にも同様の靴があるが、靴が浸水しても重くならないように水抜けの良いポリエステル製でさらに両足の内側に左右2個ずつ排水用の穴が開いています。
水を抜くことのできるこの靴があれば、足を清潔に保つことができ、塹壕足の症状も緩和できるはずです。
しかし、残念なことですが、この高機能な靴は一般隊員には配られていません。
訓練箇所や状況に合わせて適した靴を選ぶことができる予算があればいいのにと思います。
このように自衛隊の靴一つとっても、さまざまな機能があるのです。
その靴や被服の機能で自衛隊員が十分に能力を発揮できることもあれば、行動不能に陥ることも。
自衛官に向けて売られてる
訓練用の89式めっちゃぼったくり価格で売ってるよね
東京マルイだし pic.twitter.com/WliZCGaRHo— J (@2gmdKe1lPM74dy7) July 25, 2022
自衛隊の装備は なぜ統一されているのか
自衛隊の装備は、高機能でかつ統一されていなければならない理由があるのです。
一つ目は、個々で装備が違えば同一環境下で受ける影響に差が生じ、部隊の円滑な行動に支障が出るからです。
また、二つ目は、ハーグ陸戦条約という法律で交戦者の4条件の一つが「遠くからでもわかりやすい徽章をつけること」であるから。
自衛隊が国を守る正規軍と認識されるためには同じ制服や徽章を使うことが国際法のルールです。
この4条件を満たすことができなければ、正規軍として扱われず、捕虜になったときの人道的な取り扱いがされません。
テロリストや便衣兵のように扱われてしまうので、制服が統一されていることは重要なことです。
自衛隊の被服はこの条件もあり、用途に合わせて国から隊員に支給されます。
自衛隊の迷彩服には自然環境に溶け込み、敵から視認されにくいだけでなく、難燃性や赤外線暗視装置に探知されにくい加工が施されています。
銃弾や砲弾など火薬類を扱うために耐火性に優れた布地も使われています。
一つ一つの機能に意味があり、その機能が必要な場所に十分になければ有事に大きな差が出てくるのです。
塹壕足への対策についても、排水可能な靴でリスクを減らすことができるのだから、その装備品が防衛に必要であれば、予断無く全隊員に支給できる準備を整え、隊員たちの任務達成を国は全力で支援してほしいと思います。
— J (@2gmdKe1lPM74dy7) May 3, 2022
破れても交換してもらえず 自腹で制服を購入する自衛官も
自衛隊は予算不足の影響で必要な装備を十分に確保できないジレンマを抱え続けています。
それは武器だけでなく被服や靴などといった個人装備も同じです。
自衛隊員は山野を駆け回って訓練や演習を行うことが日常的。
そのため、服や靴といった被服は丈夫に作られているが破損しやすいのです。
陸上自衛隊の迷彩服はおおむね1人につき4セット支給されます。
洗い替えも考えると最低限これくらいは欲しい数。
それ以外の自衛隊員は部隊や使用頻度にもよるが2セット程度しか官給品を支給してもらえません。
被服の交換はその被服の耐用年数でほぼ決まっており、破れてしまっても簡単には交換してもらえません。
修繕して直せるうちはそれでも使うしかないのですが、仕方なく自腹で官給品と似たような制服を買うこともあると聞きます。
官給品と同等の高機能制服を買っても、官給品を着用していないときに事故を起こした場合、官給品と同じ性能が担保されていない理由で労災が下りないというのです。
このあたりの問題が起きるのも十分に交換用の余剰被服を用意していないせいです。
被服や装備品の問題は、自衛隊を支える予備自衛官にも影響しています。
予備自衛官とは、普段は民間人として働き、有事などの際は自衛官として後方地域の警備や支援などの任務にあたる非常勤の特別職国家公務員のこと。
予備自衛官には、各人に制服や靴どころか小銃も支給されません。
訓練時には、常勤自衛官の中古の服が貸し出されます。
訓練が終わったら、予備自衛官からクリーニング代を徴収して洗って元に戻します(一方、有事には第一線部隊の一員として任務に就く即応予備自衛官は迷彩服だけでなく、雨衣や防寒着、防護マスクや小銃も貸与される)。
有事の際、予備自衛官の招集時に小銃や戦闘服はどこから持ってくるのでしょうか。
現状では、予備自衛官制度を本当に機能させる心づもりがあるのか疑わしく思えるのです。
靴や迷彩服といった物品は一つ一つは小さなものだ。だが、作戦行動を担う隊員たちを支え、厳しい環境下でも任務を達成するために重要な消耗装備です。
隊員たちが国を守る使命を達成できるように装備が潤沢な環境を整えることが、防衛力の向上につながります。
堂々と自衛隊のパック飯
転売してんのヤバい pic.twitter.com/rNNNEh0sgI— J (@2gmdKe1lPM74dy7) February 2, 2022
ネットの声
「以前、NHKの番組で第一次世界大戦のヨーロッパ戦線において、「塹壕足」が大きな問題になったことを知り昔は大変だったと思いました。
まさか、今の日本のそれも訓練時の自衛隊で同じ問題が生じているとは思いませんでした。
本格的な戦闘用の重装備の武器などは、軽く億単位になっています。
同じ次元では話せないかもしれませんが、もう少し防衛予算の配分を考えてもよいのではないでしょうか。
現役の自衛官の待遇も問題ですが、一番危惧されるのは、このような記事や噂を聞いた若者が自衛隊、特に陸自への入隊の意欲を失いかねないことではないでしょうか。」「官品については『低機能』『使いにくい』と言うのが自衛官の感想です。そうでなければ多種多様な私物が売店で販売されるわけがありません。防衛費の増加も考える必要がありますが、その使途の内訳にも注目してください。自衛官の待遇を「かわいそう」と報道して予算増加を煽るのではなく防衛費が正しく使われているかを国民に知らせるのが報道の仕事だと思います。「士気を上げるのは新しい制服ではない。そんな金があるなら必要な物を買ってくれ」が現場の気持ちです。予備自衛官制度についてはその通りです。戦時に召集された時にどのような任務を付与するのか、そのために必要な訓練は何か。これらがはっきりしていない気がします。海上自衛隊の予備自衛官は射撃訓練も実施していません。何年も銃を撃ったことのない者に戦時召集で銃を持たせるつもりでしょうか。やはり予備自制度は形骸化しています。」
「国防費の増額が云々されているが、つい航空機や艦艇等大きな装備に関心がいきがちである。この記事のような自衛隊員ひとりひとりの装備にはなかなか目がいかない。この取材で今時日本でこんなこともあるんだと驚いた。自腹で用意する?こともあるなんて。まるで今のロシアの予備軍並の話かも?。24時間生命をかけて日本国を守ってくれる自衛隊員の任務遂行に支障がない環境作りを万全にしてほしい。予算、税金は有効に使ってほしい。」