“持っているだけで違法?”27億円の価値のある魔性のコイン…「1933年製ダブルイーグル」

27億円の価値があるのに〝持っているだけで違法〟なコイン「1933年製ダブルイーグル」の数奇な運命

「1933年製ダブルイーグル」はアメリカの20ドル金貨でり、全世界に22枚しかなかったという貴重なものです。

しかも、このコインは「アメリカ政府が正式に発行したにもかかわらず、後に所持しているだけで違法となる」という不思議なコインとなっています。

この「1933年製ダブルイーグル」コインのナゾを「Half as Interesting」の解説をもとにみていきましょう。

「1933年製ダブルイーグル」の奇妙な成り立ち

1907年から1932年まで、米国造幣局は「サン=ゴーデンズのダブルイーグル」と呼ばれる金貨を製造していました。

「サン=ゴーデンズ」そのコインをデザインした人の名前で、「ダブルイーグル」と呼ばれる理由は当時の10ドル効果「イーグル」2枚分の価値、すなわち20ドルのコインだからです。

さて、このころの米国の通貨制度は「金本位制」と呼ばれるもので、連邦準備銀行が発行する通貨はすべて、政府の金庫に保管されている実際の金塊に裏打ちされていなければならなかったのです。

つまり、通貨を製造するためには、実際の金が必要だったということです。

このころ米国は大不況みまわれましたたため、大統領であったフランクリン・ルーズベルトは緊急危機を打開するために、貨幣を大量に製造するよう指示しました。

The obverse of one of 10 Double Eagle gold coins at the heart of a federal trial in Philadelphia is shown in this photo provided to the media on Monday, July 11, 2011. The rare 1933 $20 coins are remnants of the last U.S. government default, almost eight decades before the current stalemate in Congress over raising the debt limit. Source: U.S. Mint via Bloomberg
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2022年のいま日本銀行が量的緩和を行ない、お札を擦っているのと同じです。

そしてこの金融政策をスムーズに進めるために「米国内での金貨、金塊、金券の買い占め」を禁止する「大統領令6102号」が発せられました。

さらに議会は、1934年に金準備法を可決し米国金貨の流通と個人所有を違法となりました。

この法律により、米国では金貨はもはや法定通貨ではなくなり、人々は金貨を他の通貨に交換しなければならなくなったのです。

金貨の所持が違法な時代

現代の感覚からすると異常なことですが、歴史的には「金貨の所持が違法」という時代が確かにアメリカには存在していたのでした。

「88年前の1933年4月5日、フランクリン・ルーズベルト大統領は、金(ゴールド)の保有を禁止する大統領令6102号に署名した。ウィキペディアによると、アメリカ人は「保有している金貨、金地金、金証券をわずかな量を除いてすべて」ドルと引き換えに強制的に没収され、違反した場合は多額の罰金や懲役が課された。1974年まで廃止されなかったこの大統領令の市民の自由への影響は、疑う余地もないほど恐ろしい。」

この「大統領令6102号」を政府が出したとき、造幣局はすでに新しいダブルイーグルを大量に製造していました。

しかし、米国政府は人々から金貨を返却させたいと考えていたため、これ以上金貨を流通させたくありませんでした。

そこで、1933年のダブルイーグルは、米国の国立民族博物館に寄贈する予定の2枚だけを残して、すべてを溶かすことにしました。

しかし、2枚しか残っていないはずなのに、少なくとも22枚残っていたことが判明しました。

つまり、20枚が米国造幣局から盗まれたということです。

そのため、この盗まれたコインの所持は違法となったのです。

いわば、過渡期における混乱がこの不思議なコインの成り立ちであり、他の金貨の所持が合法となった現在においても「所持するだけで違法」なる所以(ゆえん)です。

1944年に米国シークレットサービスは、1933年のダブルイーグルの流通を調査するためのタスクフォースを立ち上げます。

1944年にタスクフォースは造幣局の出納係がコインを盗み、フィラデルフィアの宝石商イスラエル・スウィット氏に流れたことを突き止めます。

そして、盗まれた7枚のコインを回収し、溶かしました。

その後、すぐにもう1枚の硬貨が見つかり、1952年にはさらにもう1枚が発見され溶かされています。

そして半世紀以上経った2005年、スウィット氏の家族が所有していた1933年のゴールドイーグルが10枚発見されました。

長い裁判の末、そのコインは現在も米国政府の所有物であると認められ、現在は政府の金庫に保管されています。

しかし、2枚が国立民族博物館に寄贈され、9枚が溶かされ、10枚が政府保管ということは、全部で21枚しかありません。

この世に存在する1933年製ダブルイーグルは全部で22枚です。

残り1枚はどこにいってしまったのでしょうか?

最後の1枚のゆくえ

実は米国政府がコインを盗まれたことを知る前に、エジプトのファルーク王が1944年にイスラエル・スウィット氏からこのコインを購入していたのです。

しかも、米国国庫に輸出許可の申請もしていました。

もちろん、国庫は「そのコインの所有は違法であり、あなたが持っているコインは明らかに1933年に米国から盗まれたモノのため返してほしい」と伝えるべきでしたが、手続きミスで輸出を許可してしまったため、1枚のコインはエジプトに渡ってしまいました。

米国政府はコインの返却を望みましたが、1944年は戦時中であり、エジプトもその渦中にあったため、米国はコインを取り戻そうとしている場合ではないと考えました。

その後、1952年にファルーク王が汚職などの理由でクーデターされ失脚します。

そのため、コインは米国に返還される予定でした。しかし、そのコインは消えてしまったのです。

そして、1996年、コイン所有者であるイギリスのコインディーラー、スティーブン・フェントン氏が、このコインを売り出すまで、再び姿を現すことはなかったのです。

フェントン氏は逮捕されましたが、長い法廷闘争の末、コインを売却し米国政府とフェントン氏で利益を分けることになりました。

このコインは匿名の買い手に759万ドルで売却されました。

この価格は2022年現在でいうと1,220万ドル(17億円)に相当します。

その後、2021年6月に再びオークションに出され1,880万ドル(27億円)で落札されています。

こうして数奇な運命を経て「1933年製ダブルイーグル」は世界で最も高価な〝20ドル貨幣〟となったのです。

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