“牛丼値上げ”に一喜一憂…日本人がどんどん貧しくなっている

「牛丼値上げ」のウラで、日本人が「どんどん貧しくなっている」現実

足元の消費者物価指数でみてみると、米国の物価は7%程度、欧州(ユーロ圏)は5%程度の上昇をしています。

米国では39年ぶりの高水準、ユーロ圏では過去最高水準となっているのです。

「円安ショック」のダブルパンチ

その一方で、日本は今のところ0.5%程度の上昇にとどまっていますが、これは携帯電話の通信料の値下げで1.5%程度押し下げられた影響を含んでいるため、その影響がなくなる2022年4月以降は2%程度の上昇に達するとみられます。

日本が数字以上に苦しいのは、資源価格の上昇に加えて、過度な円安が企業の業績をむしばんでいるからです。

円ベースの輸入物価指数は2021年11月~12月に上昇率が40%を超え、現行統計(1981年1月~)で最高の上昇率となっています。

牛丼「値上げ」の事情

これまで多くの企業が物価高でも販売価格への転嫁を抑えようと努力してきましたが、その努力も限界を迎えつつあるようです。

たとえば、デフレの象徴でもあった吉野家の牛丼なども、主力商品の牛丼並盛を387円から426円に値上げ(約10%の値上げ)しています。

スーパーなどに行くと、身近な食料品の値上がりも顕著になってきているのがわかります。

大手食品メーカーによれば、今後も値上げの予定が相次いでおり、日本独特の「成長なきインフレ」が庶民の家計を圧迫する公算が大きくなってきています。

過去に日本で「成長なきインフレ」が珍しかったのは、円高という防波堤が存在したからです。

企業の努力があったのはもちろんのこと、輸入品の価格が上がっても、円高によって価格上昇が抑えられるという要因が大きかったのです。

ところが今や、円高が定着する時代は終わったのかもしれません。

企業が海外への直接投資を増やしているのに加えて、国内の投資家も海外の金融資産への投資を加速させています。

日本はかつてよりインフレに弱い経済になってしまったといえるでしょう。

「実質賃金の低下」と「インフレに弱い経済」

これまでも、「実質賃金」(物価の変動率を加味した賃金)の重要性を訴えられてきました。

国民の生活水準を考える時に、大事なのは「名目賃金」ではなく「実質賃金」だからです。

日銀の金融政策が大規模緩和に舵を切り始めた2013年当時、私は「行き過ぎた円安によって物価が先に上がってしまったら、実質賃金が大幅に下落して消費が減少してしまうだろう」という警鐘が鳴らされてきました。

現実に、その後の実質賃金はインフレによって低下傾向を鮮明にして、2013年~2015年の実質賃金の下落率はリーマン・ショック期に匹敵することになりました。

その影響を受けて統計開始以来、個人消費は初めて2014年~2016年に3年連続で減少してしまったのです(『衝撃!日本人の賃金が「大不況期並み」に下がっていた』(2019年2月5日)参照)。

インフレとは見方を変えれば、隠れた税金でもあるということができます。

国民の視点に立てば、物価が高くなるということは、実質賃金を下げてしまう意味では、実質的に増税するのと変わりがないからです。

たしかに、円安のメリットとして輸出促進効果はあります。

しかし今では、日本企業の海外事業の利益は現地で再投資されることが多いので、国内の雇用や所得へのプラス効果は想定以上に小さいはずです。

「成長なきインフレ」の泥沼

消費者が買い物するときにはしばしば目にするモノがどんどん高くなっていることで、物価高になっているという消費者の感覚は実態以上に高まっており、実質賃金が下がった家計ほど購買意欲を冷え込ませる結果となっていきます。

買い控えが起きて需要が低迷すると、通常であればモノの価格は下がっていくものなのですが、資源高と円安が同時に進行して輸入物価が大幅に上がっているので、モノの価格は高止まりすることになります。

そのようなわけで、実質賃金の下落と消費の低迷が長続きする気配を見せているなかで、多くの消費者が買い物に慎重になり、厳しい目で商品を選別するようになっていきます。

当然のことですが、消費者は以前にも増して価格に対して敏感になっていきます。

たとえば、同じ商品を買う場合でも、かつてはコンビニで買っていたのに、今では値引きのある食品スーパーを利用しているという人が増えています。

このように普通の暮らしをしている人々の消費に関する行動を見ていると、過去のデフレの時よりも今のインフレの時のほうが、よりいっそう節約志向が強まっていくことになるでしょう。

人々が成長を伴わない悪性のインフレを意識している影響は、日本経済に大きな影を落としているといえそうです。

 

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