高齢化社会…本当の健康寿命って何歳??『年寄りは集まって住め ~幸福長寿の新・方程式~』

現代の高齢世代の実態や心理を時代背景から紐解くとともに、豊富な調査やインタビューから丁寧に分析。

その悩みの本質や、健康・お金・交流……、さらに“老後二千万円問題”や“キレる高齢者”などを幅広く考察していきます。

そこから見えてきた、人生100年時代の“本当に幸せな健康長寿”の創り方とは?

親孝行、したい時分に“親がいる”??そんな高齢の親を持つ世代も必読。

NPO法人「老いの工学研究所」理事長である著者が、老年期との新たな付き合い方をここに提示します。

本当の健康寿命は、何歳か?

健康寿命には、さきほど紹介した方法以外に介護保険のデータを使ったものがあります。

要介護2~5の認定を受けている人が「不健康」、そうでない人は「健康」とみなして計算します。

恐らく、この方法のほうが一般的な認識による「健康寿命」により近いはずですが、これは「平均自立期間」(日常生活動作が自立している期間の平均)と呼ばれています。

そして、2016年の「日常生活動作が自立している期間の平均」は男性が79.47年、女性が83.84年となっています。

この方法だと、広告で使われる健康寿命よりも、男性で7年、女性で8年くらい”健康”な期間が長くなります。

もっと長くなる調査もあります。

厚生労働科学研究費補助金による「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究班」(2012年)は、その論文「健康寿命の算定方法の指針」中で、六五歳の人が死亡するまでの間で、自立して(要介護認定2以上を受けずに)生活している期間と、自立していない(要介護認定2以上になった)期間の年次推移を示しました(図)。

2010年の男性をみると、当時の平均余命は18.9年でしたが、自立生活期間は17.2年でした。

つまり、自立していない期間は一・七年に過ぎません。

女性はというと、当時の平均余命が24.0年で、自立生活期間が約20.5年。

自立していない期間は3.5年となっています。

つまり、「自立生活が営める」という、一般的に認識されている意味における「健康寿命」は、この調査によれば2010年時点で男性82.2歳、女性が85.5歳だったのです。

ここから10年が経過していますから、現在はもう少し長くなっているでしょう。

こうなると、広告で謳われている「健康寿命は70歳代前半」とは、10年も違います。

そして、「健康寿命は男性が82歳、女性が85歳」と言われる方が、多くの人の実感に近いはずです。

もちろんこれは平均値ですから、90歳、100歳でも健康を保つ人は多くいるわけで、だからこそ「人生100年時代」と言えるわけです。

“65歳くらいまで生きたら、健康で暮らせる期間が平均であと20年くらいはある”ことが分かっていただけたと思います。

90歳まで元気というのは、ごくごく普通に起こる話なのです。

「老いさき短いんだから、成り行きでいい」というのはとうに昔の話で、元気でいられる長い期間をどう生きるかを考えなければなりません。

ただし、このときに生じてくるのが経済的不安です。

長く生きたら、貯蓄が尽きてしまうのではないか、貧乏してまで長生きしたくない。

そんな不安です。それでは次に、高齢者の経済的な側面について見ていくことにしましょう。

身体的な若返り。そして、知能は衰えない。

歳を重ねるにつれ、身体的には衰えていきます。

しかし、近年の高齢者の身体的な若返りは目を見張るものがあります。

健康状態・生活機能・死亡の予知因子とされている通常歩行速度を、1992年と2002年で比較した「日本人高齢者における身体機能の縦断的・横断的変化に関する研究」において、2002年の高齢者は1992年の高齢者よりも身体機能が10歳程度若返っていることが示されています。

それ以降においても、スポーツ庁が毎年実施している「新体力テスト」をみると、65~79歳までの高齢者の「握力」「上体起こし」「長座体前屈」「開眼片足立ち」「十m障害物歩行」「6分間歩行」の合計点は、男女ともに右肩上がりで上昇しています。

これらを総合すれば、現在の75歳は30年ほど前の60歳くらいに相当する身体能力を有していてもおかしくありません。

とはいえ、身体的な衰えが進むことが避けられないわけですが、同じように知能についても衰えていくかというと、そうではありません。

知能には大きく分けて、「流動性知能」と「結晶性知能」があります。流動性知能とは計算などの処理スピードや単純な記憶力などのことで、新しい環境に適応するための情報を獲得・処理していく知能。結晶性知能とは言語能力や理解力、洞察力など、経験や学習から獲得していく知能のことをいいます。

流動性知能は20歳代前半にピークを迎えたのち低下の一途を辿りますが、結晶性知能は20歳以降も上昇し、高齢になっても維持され、上昇していくこともあります。

歳をとると、単純な計算問題やまる覚えでは若い人たちにまったく歯が立ちません。

それは東京大学の先生たちだって同じです。

流動性知能が衰えていくからです。

しかし、結晶性知能は発達し続けますから、物事の捉え方が深く広くなり、感性も豊かになり、語彙も増えていきます。

だから、高齢の人たちの表現したものには見るべきものがたくさんあるのです。

私は、新聞の俳句や短歌の投稿欄を楽しみに見ていますが、いつもその感性や表現力にはうならされます。

俳句や短歌に限らず、何か創作しておられる方なら、若い頃より表現力も鑑賞力もレベルが上がったと実感しておられる方は多いでしょう。

ビジネスでも、年の功を存分に発揮しておられる年配者がたくさんいます。

それは人や物事や自然を見る目、この先の将来を想像したり描いたりする力など、結晶性知能が発達し続けている証左なのです。

さらに言えば、人生を豊かにするのは明らかに結晶性知能のほうです。

そしてそれは、コンピュータに取って替わられることがない、人間らしい能力と言えるでしょう。

『年寄りは集まって住め ~幸福長寿の新・方程式~』 川口雅裕(著) 幻冬舎 (2021/8/30) 990円

『おひとりさまの老後』に、ほんとうの幸せはあるのか――。

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現代の高齢世代の実態や心理を時代背景から紐解くとともに、豊富な調査やインタビューから丁寧に分析。

その悩みの本質や、健康・お金・交流……、さらに“老後二千万円問題”や“キレる高齢者”などを幅広く考察していく。

そこから見えてきた、人生100年時代の“本当に幸せな健康長寿”の創り方とは?

親孝行、したい時分に“親がいる”??そんな高齢の親を持つ世代も必読。

NPO法人「老いの工学研究所」理事長である著者が、老年期との新たな付き合い方をここに提示する。

<目次>
第一章 高齢者たちの姿や声に学ぶ
第二章 現代の高齢者は、どのような人たちか?
第三章 高齢期の幸福について――健康、お金、親子関係……
第四章 高齢者が集まって暮らすことによる価値
終章 幸福な高齢期に向かって

ネットの声

「仕事もお金もあって人との繋がりも豊かな高齢者は「お一人様」でも良いのでしょうけど、普通はそうじゃない。じゃあ、普通の高齢者はどうすれば良いの?という問いにシンプルに答えてくれる一冊。
「お一人様」が楽しく健康に暮らせる方法とは?と考えると、「年寄りは集まって住め」と言うより、「独身は・・・」とういう感じがする。若い独身の男女へのメッセージとして相応しいい著書と自信は感じる。」

「定年を過ぎた親がいて、漠然と不安を感じるようになってきていましたが、それは、高齢者っていうものを勘違いしていたせいなんだと。実際の高齢者っていうのは、こういう人たちなのかと思い知らされます。
たくさんの事例を読んでいるうちに、いつか自分も介護に巻き込まれるんじゃないかというような発想が吹き飛んで、勇気が出てきました。」

「本の中に高齢者が口にした「人生の後悔」がいくつも書いてありますが、これを読むと高齢者が生きてきた時代のこと、その時の日本の様子などに想いを馳せることができます。そして、高齢者のこれまでの努力に対する敬意を若い私たちが忘れてはならないと言うことを教えられます。」

 

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