人生100年時代…「ただ死なないだけ」じゃだめだよ

若返るのではなく「死なない」だけ…「人生100年時代」の悲愴

長い老いの期間を健やかに過ごすためには、脳の機能をいかに80代以降も保つかが重要です。

あわせて、70代のときにもっている運動機能を、いかに長持ちさせるかということも大切になってきます。

高齢者専門の医療現場に携わってきた精神科医の和田秀樹氏は、著書『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)のなかで、「人の老い」を解説します。

寿命が延びるにしたがって70代が重要に

「人生100年時代」に70代はターニングポイント

現代の日本において、70代の過ごし方が重要性を増してきた理由には、超長寿化によって、老いの期間がこれまでより延長するようになってきたという点も挙げられます。

そもそも、これまで日本人は、戦後の栄養状態の改善によって、大きく寿命を延ばし、前の世代よりも若々しくなってきました。

かつて漫画『サザエさん』の連載が始まったのは1947年ですが、父親の磯野波平は当時、54歳の設定でした。

いまの私たちから見ると、どう見ても60代半ばに見えます。

それくらい、現代の日本人は若返ってきたのです。

しかし、この栄養状態の改善が、人々の若返りや寿命の延びに寄与してきたのも、1960年くらいに生まれた人たちまでで終わったと私は考えています。

実際、日本人の平均身長の推移も、戦後、急速に伸びてきましたが、ここ20年くらいは伸びが止まっています。

もはや栄養状態の改善は、日本全体に行きわたり、そのことが寿命の延びを牽引していくという時代は終わっているのです。

しかし実際にその後も、日本人の平均寿命は延び続け、これからも延びていくと予想されています。

これは、医学の進歩がそうさせるのです。

日本人は戦後に劇的に若返ってきた体験をしているので、「人生100年時代」などと言われると、いまよりさらに若返りが可能になり、寿命が延びていくと考える人もいますが、それは正しい認識ではありません。

80歳や90歳になっても、いまの70代の人たちのように元気に活躍できるようになって、人生のゴールがどんどん後ろにずれていくというのは幻想でしかありません。

若返るのではなく、医学の進歩によって、「死なない」から超長寿になるというのが「人生100年時代」の実像です。

80歳にもなれば、みな老いに直面することになります。

しかし一方で、寿命だけは延びていく。

これは、私たちの人生設計を大きく変えることになるかもしれません。

これまではせいぜい10年ほどだった「老い」の期間が、15~20年に延長する人生が標準になっていくからです。

今後は、伸長した老いの期間をどう生きるかが重要な課題になっていくでしょう。

そして、その延長した老いのあり方を左右するのが、人生終盤の活動期である70代ということになります。

寿命がますます延びていく「人生100年時代」だからこそ、70代はますます重要性を増してきているのです。

70代の生き方が80代を大きく左右する

70代は老いと闘える最後のチャンス

長い老いの期間を健やかに過ごすためには、まず、脳の機能をいかに80代以降も保つかが重要です。

あわせて、70代のときにもっている運動機能を、いかに長持ちさせるかということも大切になってきます。

カギとなるのが、70代の過ごし方です。

70代前半までであれば、認知症や要介護となっている人は、まだ1割もいません。

けがをしたり、大病を患ったりしていなければ、中高年時代のように、たいていのことはできるはずです。

この人生終盤の活動期に努力して過ごすことで、身体も脳も、若さを保つことができますし、その後、要介護となる時期を遅らせることも可能になるのです。

元気な80代へとソフトランディングしていくためには、とても大切な時期と言えます。

ただ、みなさんにわかってほしいのは、私は一生、老いに抵抗したり、闘い続けることをお勧めしているわけではないということです。

たしかに現在のアンチエイジング医療の進歩は目覚ましいものがあり、外見においても、70代くらいまでは現役時代とさほど変化がない状態を保つことができるようになってきています。

しかし結局、それが可能なのも、80代くらいまでのことでしょう。

80代を過ぎれば、必ずみな老いていきます。

老いを完全に止めることはできないのです。

「人生100年時代」が目前に迫った私たちは、今後は、「老い」を2つの時期に分けて考えることが求められていると私は考えています。

それは70代の「老いと闘う時期」と、80代以降の「老いを受け入れる時期」の2つです。

どんなに抗おうと、老いを受け入れざるを得ない時期が、80代以降に必ずやってきます。

それなのに、いつまでも若さを求めて老いと闘っていては、結局、挫折感しかもたらさないのではないでしょうか。

80代になり、85歳を過ぎたくらいからは、誰かの手を借りることも多くなってきます。

そのときこそ、ありのままの自分の老いを、受け入れる時期と考えたほうがいいでしょう。

そうでなければ、その後の15~20年ほどに延長した「老いの期間」を生きていくことはとてもつらいものになってしまいます。

寿命が100歳近くにまで延びていくと、寝たきりで老衰で亡くなるというケースが一般的になっていきます。

誰もが高い確率でそのような晩年を迎えるのですから、「老い」を忌避して生きていくことのほうが不自然なことです。

80歳を過ぎて老いた自分に失望したり、「老い」を嫌悪したりする必要はないのです。

むしろ、大病で命を落とすこともなく、事故にあうこともなく、天寿をまっとうしているからこそ、老いに直面していると考えてもいいのではないでしょうか。

80歳を過ぎたら、老いていく自然の成り行きを受け入れる時期と言えるでしょう。

その一方で、70代においては、人々はより元気になり、まだまだ老いと闘うことのできる時期と言えるでしょう。

元気でいようと努力することは、70代においては効果もありますし、意味があることだと私は考えています。

「老い」の受け止め方は人それぞれですし、若々しくいたいなどとは思わない。

ありのまま自然に老いていくことがいちばんだと考える人ももちろんいます。

老いの過ごし方、受け止め方に、正解などありませんし、人それぞれ自由でいいわけです。

ただ、80代になっても元気さを長く保ちたい、生活の質を維持したい、身体もある程度動けるほうがいいし、頭もはっきりしているほうがいいと考えるなら、70代はまだまだ老いと闘える最後のチャンスだということです。

このときの日々の努力が、その後の80代のあり方を大きく左右するものとなっていくのです。

70歳が老化の分かれ道 和田秀樹 (著) 詩想社 (2021/6/9) 1,100円

70歳が人生の分かれ道!

70歳を境に一気に衰えていくのか

それともこれまでの若さを持続できるのか、

人生100年時代を迎えたこれからは70代の生き方が、その人の「老化の速さ」、「寿命」を決める!

団塊の世代もみな、2020年には70代となっている。

現在の70代の日本人は、これまでの70代とはまったく違う。

格段に若々しく、健康になった70代の10年間は、人生における「最後の活動期」となった。

この時期の過ごし方が、その後、その人がいかに老いていくかを決めるようになったのだ。

70代に努力することで、要介護になる時期をできるだけ遅らせ、晩年も若々しさを保つことができる。

ただ、70代には特有の脆弱さがあることも事実。

寿命の延びに、健康寿命の延びはいまだ追いついていない。

70代をうまく乗り切らないと、よぼよぼとした状態で長い老いの期間を過ごすことになってしまう。

70代の人は、無自覚に過ごしていると、自然と老いは加速していく。

だからこそ、老いを遠ざけようと意図的に生活することが求められる。

老いを遅らせる70代の生き方とはいかなるものか。

日々の生活習慣から、医療とのかかわり方、健康管理についてなど、自立した晩年をもたらす70代の健康術を老年医学の専門家が説く。

(目次)
「まえがき」70歳は人生の分かれ道

第1章 健康長寿のカギは「70代」にある
・いまの70代は、かつての70代とはまったく違う
・もはや70代は現役時代の延長でいられる期間となった
・一気に老け込まないために、いちばん必要なもの
・70代に身につける「習慣」が、その後の人生を救う
・・・など

第2章 老いを遅らせる70代の生活
・働くことは、老化防止の最高の薬
・運転免許は返納してはいけない
・肉を食べる習慣が「老い」を遠ざける
・インプットからアウトプットに行動を変える効果
・70代の運動習慣のつくり方
・寝たきりにならない転倒リスクの減らし方
・長生きしたければダイエットをしてはいけない
・70代になったら、人づき合いを見直そう
・・・など

第3章 知らないと寿命を縮める70代の医療とのつき合い方
・いま飲んでいる薬を見直してみよう
・70代になったら注意すべき医師の言葉
・70代の人のかしこい医師の選び方
・70代のための「がん」とのつき合い方
・70代は「うつ」のリスクが高くなる
・認知症は病気ではなく、老化現象の1つだ
・・・など

第4章 退職、介護、死別、うつ……「70代の危機」を乗り越える
・定年後の喪失感をどう克服するか
・介護を生きがいにしない
・在宅介護より在宅看取りという選択肢
・配偶者や親との死別を乗り越えて生きるには
・高齢者のうつのサインを見逃さない
・・・など

著者について
和田秀樹(わだ ひでき)
1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって、高齢者医療の現場に携わっている。主な著書に『自分が高齢になるということ』(新講社)、『年代別 医学的に正しい生き方』(講談社)、『六十代と七十代 心と体の整え方』(バジリコ)、『「人生100年」老年格差』(詩想社)などがある。

ネットの声

「高齢者にとって生活環境が変わることは大きなリスクで活動レベルの低下がこれまで機能していた運動機能や脳の働きをすたれさせるという作者の持論のなかで「運転免許は返納してはいけない」を挙げている、運転免許を返納すると家にこもり外出機会は減る、実際高齢者で運転を辞めた人は運転を続けた人に比べ6年後には要介護状態が2倍という調査結果は説得力がある。」

「定年退職をしてしまったけど、元気な体を維持してチャレンジを続けたい。現役時代では、特別な才能も学歴もなかったので、下積みで苦労しただけで、金もなく出世をすることもなく、悶々として生きてきただけだった。一花咲かせたい。私は駄馬ですが、功在不捨したい。」

「血圧や検査結果の数値を気にして一喜一憂しないこと。和田先生は血圧がかなり高いが、160くらいに
は下げているとかのくだりでは、自分は160ほどないので、薬はもらわないで、毎日健康に気を付けて楽しく過ごすのが大事かと思った。」

 

おすすめの記事