緋色の残響 長岡弘樹 (著) 双葉社 (2023/6/14) 737円

日本推理作家協会賞受賞作「傍聞き」の主人公、シングルマザー刑事の啓子と一人娘の菜月。

読者の圧倒的な支持を得て、短編集『傍聞き』は45万部超のベストセラーに。

その母娘コンビが全編の主役を飾る、初の連作短編集。

『推理小説年鑑 ザ・ベストミステリーズ2019』に選出された傑作「緋色の残響」を含む5編を収録。

母さながらの洞察力を発揮し、難解な事件に挑む娘の活躍にも注目!

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長岡弘樹『緋色の残響』双葉文庫。

日本推理作家協会賞受賞作『傍聞き』で主人公を務めたシングルマザー刑事の羽角啓子と一人娘で中学生の菜月を全編の主人公にした5編収録の連作短編集。

裏表紙の解説によれば、本作がシリーズ第1弾ということなので、今後シリーズ化されるようだ。

刑事である啓子の推理や洞察力も凄いが、娘の菜月も負けていない。

つまりは母娘が二人で主人公を演じることになり、どの短編でも刑事事件が菜月の周囲で起きるというのは仕方の無いことなのだろう。

全ての短編が一定水準に達しているが、中でも表題作の『緋色の残響』が面白かった。

長岡弘樹の短編は登場人物の心理を余り詳しく描くことはなく、伏線が張り巡らされたストーリーだけが淡々と進行していく。あからさまな伏線もそうなのだが、謎解きも機械的な感じがして、無機質な短編に仕上がっているように思う。

それを善しとするか否かはそれぞれの読み手の受け止め方の自由であるが、個人的には、小説としての物足りなさを少しだけ感じる。

『黒い遺品』。伏線に次ぐ伏線が見事に回収され、真相に結び付く面白さ。夫が残した遺品、古い新聞記事の写真、似顔絵……

地元の不良グループのサブリーダーで飲食店勤務の19歳の男が何者かに殺害される。シングルマザー刑事の羽角啓子は部下の黒木駿と聞き込みを行うと殺害時刻に現場から逃走する不審な人物がいたことが判明する。そして、その人物を目撃した可能性のある人物が、啓子の娘の菜月であることを突き止める。

犯人の動機については全く触れられない点が不満と言えば不満。

★★★★

『翳った水槽』。またも菜月が事件の鍵を握る存在となる。そんなことがそう何度もあり得るのかとも思うが、創作の世界だから大目に見よう。犯人は直ぐに判るのだが、啓子がどうしてその人物を犯人だと見破ったのかが短編の読みどころとなる。

ある日、菜月の女性担任が家庭訪問に来るが、啓子は急な事件の捜査で帰宅出来なくなり、家庭訪問は後日あらためて行われることになった。テーブルの上に担任が手帳を忘れて行ったことに気付いた菜月は、手帳を届けに担任のマンションに行く。マンションの担任の部屋に行くと、部屋は施錠されておらず、担任はベッドで寝ているようだった。

手帳を届けに来たとメモ書きを残し、マンションを後にした菜月が母親に連絡を取ると、家庭訪問に来た菜月の担任が何者かに殺害されていたことを知らされる。

理屈ではそうなのだろうが、そう上手く判るものなのかという点が疑問。

★★★★

『緋色の残響』。『推理小説年鑑 ザ・ベストミステリーズ2019』に選出された表題作。既読作。講談社文庫の『2019 ザ・ベストミステリーズ』に収録されていた。全ての真相が明らかになった瞬間に背筋に電気が走るような衝撃を受ける大傑作。

菜月がかつて通っていたピアノ教室で生徒が異状死する。死因はピーナッツによるアレルギーということで、当初、ピアノ教室の教師が疑われていたのだが、嫌疑不充分で釈放される。しかし、啓子は諦めていなかった。それ以上に……

見事な伏線回収。これぞミステリー短編のお手本とも言うべき作品。

★★★★★

『暗い聖域』。張り巡らされた伏線がドラマを生む。まさかの展開に驚いたが、今の時代なら十分にあり得ることか。

ある日、菜月は中学校の同級生の男子から料理を教えて欲しいと頼まれる。扱う食材はアロエ。その後、暫くして、その男子が高所から転落して大怪我を負う。犯人とその動機は……

『緋色の残響』と類似した伏線かと思えば、伏線はそれだけではなかった。

★★★★★

『無色のサファイア』。継続は力なり。諦めずに目標を達成するために一つのことをやり続けることは難しいことだ。

啓子は、その類い稀な洞察力から菜月が中学校で虐めを受けているのではと心配する。2年前に質屋で起きた強盗殺人事件。捕まったのは啓子の同級生の男で、菜月が通う中学校の卒業生だった。冤罪の可能性が高い事件だったが、本人の自供により無期懲役の判決が下る。中学校の新聞部に所属する菜月は男の無罪を信じて、キャンペーンを行い、ある行動に出る。

この母親にして、この娘あり。見事な伏線回収と結末。そして、珍しくオチもある。

「刑事の母と新聞部に所属する中学生の娘が活躍する推理小説。短編5作が収録されておりサクサク読めます。娘の菜月の方が刑事顔負けの執念のある行動をするのがいいですね。」

「短編だから伏線があまり活きないがどの話もそれなりに楽しめる。さらに登場人物が少ないので、割と簡単にオチが分かってしまう部分があり、他の著者のシリーズよりは分かりやすいミステリーである。母娘の関係が前作に続き、話の中心にあり、今後の娘の成長も楽しみ。」

「刑事の母と中学生の娘が関わる身近な事件の数々。教場シリーズなどと比べると、いずれもごく短く案外あっさりしたあじわいの連作。おそらくは娘の成長とともに続編が期待できそうだ。ありそうでなかった”親娘デカ”なども想像してみたい。ドラマ化すれば配役は、と考えるのもまた楽しい。これからも楽しみに待つ。」


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