生と死を分ける数学 キット・イェーツ(著)、冨永星(翻訳) 草思社 (2020/9/30)

感染症の蔓延から検査の偽陽性・偽陰性、ブラック・ライブズ・マター運動や刑事裁判のDNA鑑定、結婚相手選びまで。

重大事のウラに、数学あり。

数学は、あなたの人生のそこかしこに入り込んで、生殺与奪の権利を握っている。

生きるも死ぬも、数学次第なのだ。

実際、数学を知らないために、あるいは数学を誤用したために、命を落としたり、財産を失ったり、無実の罪を着せられたりした例が、どれほど多いことか。

逆に、簡単な数学を少し使えるだけで、マスコミや政治家の嘘を見破ったり、詐欺に巻き込まれるのを防いだり、健康診断の結果を正しく理解したりできるようになる。

さらには、理想の結婚相手を選ぶのにも役立つかも……。

数理生物学者でもある気鋭の数学ライターが、数々の事例を紹介しながら、あなたの人生と数学の関係を解説する。

  • 乳がん検診で「再検査」と言われたら心配すべき?
  • 蔓延を抑えるワクチン。人口の何%に打てばいい?
  • 「加工肉で大腸がんリスクが1.2倍」心配すべき?
  • 最良の相手と結婚するなら何人目まで見送るか?
  • 2進法と10進法の変換による「丸め誤差」で戦死
  • DNA鑑定の一致確率「300万分の1」は信頼性十分?
  • 実は、平均寿命よりも長生きする人のほうが多い

「数学は実生活には役に立たないと思われていることが多いが、実は生活のあちこちで使われている。
著者は数理生物学者。大学で応用数学を学び、数学を使えばほぼすべての事柄を記述することができることを知った。本書では、この世界と数学の結びつきについて解説している。
この本は数学書ではない。難しい数式は出てこない。数学が苦手な人のための本のようだ。
まずは指数的な変化について。マンハッタン計画で、オッペンハイマーたちは核連鎖反応で指数的にエネルギーを増やす方法を開発し、原子爆弾を作り出したのだ。
BMI値についての考察もある。BMI値が正常範囲であれば肥満ではないとされるが、実際は体脂肪が多くて筋肉の少ない「やせ太り」の人はBMI値では検出できない。また、BMI値で「肥満」とされた人でも、全く健康に問題がないこともある。医学のデータや検査は、数学的に見ると信用できないものもあるのだ。
2017年5月22日には、イギリスのライブ会場でテロが起きた。犯人はサルマンという若者だった。アメリカのトランプ政権の国務副次官補だったゴルカは、この事件について「マンチェスターの爆発は、フュージリア連隊のリー・リグビーが公衆の面前で殺されてから丸4年の節目に起きた。聖戦のテロリストにとっては日時が重要なのだ」とツイートした。軍人だったリー・リグビーはイスラム過激派の2人の黒人に肉切り包丁で襲われた。それが、2013年の5月22日だったのだ。サルマンもムスリムだったが、犯人像としては「一匹狼」だった。もしリグビーに対するテロと同じ日に計画して行ったとすれば、「一匹狼」という犯人像とは一致しない。
2013年から2018年までの5年間で、西洋でのイスラム過激派のテロは39件あった。これらのテロがランダムに起きたとすると、2つのテロが同じ日に起きることはあり得ないように思える。しかし、39件のテロからは741組の対が作れるので、2つのテロが偶然同じ日に起こる確率は約88%になるという。
一つひとつの実例から、数字やデータをそのまま鵜呑みにしてはいけないことが分かる。本当の意味で「数学的な」分析をすればマスコミや広告が示す数字の真実が見抜けるようになるのだ。
数学が不得意で、学校でもあまり数学をやらなかった私にとっては、この本の例のように数字の示す意味を見抜くのは難しい。しかし、これからは少し批判的な視点を持ってデータや数字を見ることができそうである。数学が苦手な人に読んでいただきたい本である。」


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