その先は生き地獄?親方日の丸なので年金制度は破綻しないけど…

年金制度は破綻しないが、もらえる年金が減少する生き地獄が

5年ごと財政検証をし、財政上問題があれば手が打たれるような仕組みになっています。

年金制度が崩壊することはありませんが、年金の給付額が減る可能性はあります。

フィナンシャルプランナーの長尾義弘氏が著書『とっくに50代 老後のお金どう作ればいいですか?』(青春新書)で解説。

繰り上げ受給をしてはいけない理由

年金を早めにもらって、元気なうちに使う手もあるのでは?

――繰り下げ受給がお得なことは理解しましたが、その逆に繰り上げ受給もできるんですよね。
60代前半の元気なうちに受け取って楽しく使い、人生を充実させる手もあるのかな、という気もするんですが。

長尾FP その考えはわからないでもありません。この先、何があるのかわからない、意外に早く死んでしまうかもしれないし、もらえるうちにもらっておこう、という考え方ですね。

実際、そういう人はけっこう多くて、年金受給資格者の15%の人が繰り上げ受給をしています。これに対して、繰り下げ受給をしている人は1.5%ですから、10倍も多いんですよ。

――では、割と一般的な考え方ともいえますね。繰り上げ受給も考えてみようかな。FPさんの意見はどうでしょう?

長尾FP 結論から言いましょう。本当にお金に困っていないのであれば、繰り上げ受給は絶対にやってはいけません。繰り下げ受給とは逆に、すごく損をしてしまいます。

――損をするって、どういうことですか?

長尾FP 繰り上げ受給をすると、年金が減額されてしまうんです。当然ですよね。受給額が通常と同じなら、みんな60歳から受け取りはじめるでしょう。

繰り上げ受給をすると、2022年4月からは月額0.4%の減額になります。年間では4.8%です。60歳からすぐに受け取りを開始すると、24%も減額されてしまうんですよ。

この場合の損益分岐点は80歳未満です。平均余命を考えると、女性はもちろん、男性でも大半の人が損をすることになります。

80代になって収入がない状況で、年金を通常のほぼ4分の3しかもらえないのですから、本当に辛い老後になると思いますよ。

――それは想像するだけで恐ろしい……。なんとしても、やめておきます。

でも、少子高齢化が進むので、年金って、当てにならないのでは?

――年金が老後資金の柱だというのはよくわかりました。しかし、気になることがあります。年金制度って本当に大丈夫なんですか? 少子高齢化によって、制度自体が崩壊するという話を聞いたことがあります。年金がなくなれば、老後の資金計画自体が根底から崩れてしまいますよね。

長尾FP 年金制度は危ない、崩壊してしまう、納めても受け取れなくなるのではないか、払い損じゃないか、などとよくいわれます。けれども、これらは全部デマです。まったくのウソですので、信用しないでください。

年金制度は崩壊しません。65歳以上の世帯の約半分が、年金だけで生活しているんですよ。年金が支給されなくなったら、そういった人たちはどうなりますか? 生活保護の受給者が大量に生まれてしまいます。

年金の財源は社会保険ですが、生活保護の予算は国が4分の3、自治体が4分の1をまかなっています。

年金制度が崩壊したら、激増する生活保護の予算が国に大きくのしかかってきます。そんなことは絶対に避けなければいけません。ですから、国が年金制度を崩壊させることはないのです。

働いていない高齢者をどう支えるか

――でも、日本では少子高齢化が進んでいて、これからも高齢者は増えていきますよね。現役世代が高齢者を支えていけなくなるのでは?

長尾FP 少子高齢化によって、高齢者は増える一方だと思っている人が多いようですが、間違っています。

これから、現在約600万人いる団塊の世代が亡くなっていく時代に入ります。このため、高齢者が増えるのは2040年あたりまで。ここを過ぎると、高齢者の数はほぼ横ばいになるんですよ。

――そうなんですか。でも、高齢者が増えなくても少子化は進みます。年金の財政は圧迫されると思いますが。

長尾FP 少子高齢化で年金制度がだめになると主張する人は、65歳以上の高齢者1人を、20歳から64歳までの現役世代の何人で支えるのか、という視点から説明しようとします。単純に、世代別の人口で比較するわけです。

まず、この視点から見てみましょう。1980年代の人口分布を見ると、高齢者1人を現役世代6.6人で支えていました。いわば神輿の上に高齢者が乗り、それを現役世代がかついでいるような状態ですね。

その後、日本では少子高齢化が進み、2010年には高齢者1人を現役世代2.6人で支えるようになりました。かつぐ人の数は減りましたが、一応、まだ神輿のような状態です。

しかし、その後も少子高齢化は続き、2040年になると高齢者1人に対して、現役世代は1.4人しかいないという状況になると予測されています。これはもう神輿ではなく、現役世代が高齢者を肩車しているような状態。こう説明されることが多いんですよ。

――はい、聞いたことがあります。神輿でかついでいたのが肩車になるなんて、大変なことですよね。

長尾FP そう思うでしょう? けれども、年金制度で重要なのは、働いていない高齢者を働いている人がどう支えるかということです。単純に世代の人口比で説明できるようなことではありません。

働いていない高齢者、働いている人という視点から見ると、じつは1980年の時点で、すでに神輿の状態ではありません。働いていない高齢者1人を、働いている0.9人で支えていました。

その後、2010年には働いている0.97人で支えており、さらに2040年には0.9人で支えるようになると予測されています。これらの数字を見ると明らかで、年金制度は少子高齢化の影響は特に受けないのです。

――ちょっと、狐につままれたような気がしますが、どういうことでしょう?

長尾FP 昔と比べて、いまは女性が社会にずっと進出し、働くようになっています。加えて、近年は60歳を超えても多くの人が働いており、その傾向は今後さらに強くなるでしょう。

つまり、昔も今も、働いて年金を支払う人の割合はあまり変わっていないので、年金制度は崩壊しないというわけです。

もうひとつ、年金制度が「マクロ経済スライド」を採用しているのも健全性を保てる理由です。

マクロ経済スライドとは、人口減少や寿命の延び、インフレやデフレなどの社会情勢に合わせて、年金の給付水準を調整する仕組みのことです。たとえば、物価が上がると年金の支給額も少しだけ上がる、といったように自動的に調整されます。

もう一度、結論を言いましょう。年金をもらえなくなることはありません。安心して、年金を老後資金の柱にしてください。

――なるほど、安心しました。FPさんに教えてもらったことを実践して、年金をできるだけ増やすようにしたいと思います。

ネットの声

「今後リターンが厚くなる確率は、日本が再び成長軌道に乗り勤労者の給料が毎年のように上がり出生率も比例して伸びていくケースに賭けるくらい低いのは確かだろう。
それで政府も信用を置けないから早めに受給して、住民税を免れたり医療介護の自己負担を抑えた方がいいと考える人が出てくるんだろう。
でもさ、同じ理由で住民税非課税ラインや医療費の自己負担率が今後も不変という事もあり得ないのだから、繰上げによる低い支給額で行政の上を行ったつもりになるのは後々自分に都合のいいファクターしか着目せずに後悔することになるリスクも考慮して判断すべきだろう。」

「高齢者の就労を推し進めるには、企業の考え方を変える必要もあると思いますよ。

同じ職場で長年一緒に働いていた方が、病気になり2ヶ月療養。幸い仕事に戻れるくらいに体調は回復し、本人も職場復帰する気満々だったのに、会社から一方的に雇用契約を打ち切られました。
人間なのですから、病気やケガで仕事を長期的に休むことだって起こりえます。復帰が望めないような状況であれば、それも仕方ないとは思いますが、本人の意思を無視してのこの契約打ち切りは、高齢者の方々の働く意欲を下げるものになるのではないでしょうか。」

「元気に働けるうちは一生懸命に働いて、年金原資と金融資産を増やせば良いのです。人それぞれ夢に描く生活は違うのですから、ステレオタイプのFPの言葉を鵜呑みにしてはいけません。
確かにこのまま少子高齢化が進み、年金原資が減少する状況下では、年金の支給額は減っていくでしょう。それに堪えうる経過基盤を早めに手に入れることこそ重要です。無茶な投資や博打で一攫千金を狙わず、こつこつ継続的に稼ぐ方法を見つけましょう。人の寿命は読めませんが、高度成長期に生活を謳歌した団塊の世代は案外早死にする人が多いような気がします。」

とっくに50代 老後のお金どう作ればいいですか? 長尾義弘 (著) 青春出版社 (2022/3/16) 1,100円

投資をしろだの、iDeCoだNISAだのと、いまの世の中、お金を増やしたり貯めたり守ったりの話があふれています。

一方で、「そんなこと、いまさら言われても遅いんだよ!」と憤ったり、暗い気持ちになっている50代は少なくありません。

そこですがったのが、ファイナンシャルプランナーの長尾さん。

子育て真っ最中だったり、夫婦2人だったり、独身だったり…さまざまな状況の50代中高年。その代表としての「取材者(=相談者)」が、お金に関する質問を嵐のようにぶつけて、なんとか実現可能で有用な答えを引き出します。

著者について
ファイナンシャルプランナー、AFP、日本年金学会会員。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。新聞・雑誌・Webなどで「お金」をテーマに幅広く執筆。

 

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