痩せやすさを考えたら日本人はやっぱりお米だと思う

日本人はお米をしっかり食べたほうが痩せやすいという説

ダイエット法として注目される糖質制限。

ついつい「ご飯(白米)を控えよう!」という話になりがちです。

しかし、江戸の庶民の食生活を研究する江戸料理・文化研究家の車浮代氏によると、“白米悪者説”はどうも疑わしそうです。

謎を解くカギは「アミラーゼ遺伝子」。この数が多い民族は、炭水化物をたくさん摂っても太りにくいのだとか。

江戸時代は暮らしそのものが“運動”だった

徳川家康が入城した1590年ごろの江戸は、湿地が多くて人が住みにくい土地でした。

家も100軒ほどしかなかったそうです。

そんな湿地帯に城や城下町を築くには、人手がいくらあっても足りません。

家康の家臣たちも、自ら現場に出て汗を流すとともに、全国から作業員が集められました。

やがて、新しい町で一旗揚げようという職人や商人も大勢やってきました。

さらに、幕府が開かれると、参勤するようになった大名や、その家臣たちも江戸に住み始めます。

こうしたことから、家康が江戸に入城して間もないころは、江戸の人口の8割ほどが男性でした。

江戸時代の男女比は4対1、ようやく幕末に1対1になります。

ただ、女性が増えていったといっても、商売女が多く、町娘やおかみさんという素人の「地女(じおんな)」は少ないままでした。

そのため、江戸の男性は独身者がとても多かったのです。

江戸には、実にさまざまな職業がありました。

町をつくる大工や左官などの職人はもとより、駕籠かき(かごをかついで人を運ぶ生業の人)や車力(荷車などを引き、荷物の運送をする人)、人足(力仕事に従事する人)など、体力勝負の仕事をする人も多くいました。

また、天秤棒をかついでさまざまなものを売り歩く棒手振りも大勢いました(男性だけでなく、女性もいました)。

馬丁(馬の世話を生業にする人)たちは、馬と速さを競うかのように、1日に何十キロも軽快に走り抜けました。

江戸時代の道は、現在のように舗装されておらず、砂利道や凸凹した道、上り坂や下り坂もありました。

そこを草鞋(わらじ)一つで走るのです。

さまざまな筋肉を俊敏に使いこなして走る日常は、どんなにすばらしく体幹を鍛えたことでしょう。

商いを生業にする人も、武士も、よほど位の高い人物でなければ、どこにいくのも大抵は自分の足。

特別な運動をしなくても、生活そのものが運動でした。

その活動源になったのが白米です。

白米は、私たちの体内でブドウ糖に効率よく分解されます。

ブドウ糖は、心身のあらゆる活動のエネルギー源です。

人が元気にいきいきと活動できるのは、エネルギーが体内で産生されているからで、エネルギーが不足すれば疲労感が強まり、心もイライラしやすく、人生を楽しめなくなります。

そんな大事なブドウ糖ですから、体は消費できなかったぶんを脂肪などに変えて蓄えます。

「白米を食べると太る」という仮説は、「白米を食べて、活動量が少ないから太る」というのが正しい言い方でしょう。

アミラーゼ遺伝子が多い日本人

現代的な暮らしでは、江戸っ子のように体を使うことはなかなかできません。

そうだとすると、やはり私たちは、白米は避けたほうが無難なのでしょうか。

「江戸っ子は、1日に5合もの白米を食べていました」と講演会などでお話をすると、皆さんとても驚かれます。

「白米を食べると太りそうで、罪悪感があって食べられません」という人も大勢います。

しかし、最近の栄養学では、「日本人は、お米をしっかり食べたほうが痩せやすい」と報告されているのも事実です。

ダートマス大学のナサニエル・ドミニ―博士の研究チームは、2007年に「アミラーゼ遺伝子」は民族によって違いがあると発見しました。

アミラーゼとは、炭水化物(でんぷん)を分解して糖にする酵素で、主に唾液腺や耳下腺、膵臓から分泌されています。

同研究チームは、世界のさまざまな民族の唾液を調べ、唾液中のアミラーゼ遺伝子を解析しました。

結果、日常的に炭水化物をあまりとらない民族は、アミラーゼ遺伝子の数が平均して4~5個でした。

これに対し、日常的に炭水化物を多くとる民族はその数が多く、日本人は平均で7個も持っていたということです。

アミラーゼ遺伝子が多いということは、炭水化物の分解の効率がよく、体が糖をスムーズに活用できます。

また、アミラーゼ遺伝子が多い人ほど、炭水化物をとっても太りにくいと報告されています。

肥満や糖尿病の原因は白米ではない!?

もう一つ、「お米を食べる罪悪感」を克服させてくれるデータがあります。

厚生労働省が公表している資料で、1950年と2010年のデータを比較してみてください。

1950年:国民1人1日あたりの摂取エネルギー・・・2098キロカロリー

このうち穀類エネルギー比率は77パーセント(茶碗1杯は精米で約65グラム)

2010年:国民1人1日あたりの摂取エネルギー・・・1849キロカロリー

このうち穀類エネルギー比率は43パーセント。

炭水化物の1日量は258グラム、白米にしてお茶碗に4杯弱

いかがでしょうか。

現代のほうが、終戦から5年後の日本より、摂取エネルギーも炭水化物の摂取量も、大幅に少なくなっています。

ところが、肥満者と糖尿病の発症数は、現代のほうがはるかに多くなっています。

こうしたデータを見ていると、肥満や糖尿病の直接の原因は、白米ではないと思えてきます。

そう気がついたら、江戸っ子のこんな声が聞こえてきませんか。

「病気になりたくねえ、太りたくねえ、なんぞといって、銀シャリばかり悪者にすんじゃねえよ。こんなにうまいものを食わねえなんて、人生損ってもんだぜ」

江戸っ子の食養生 車浮代 (著) ワニブックス (2022/5/20) 990円

粋で健康的、美味しくて安上がり

今こそ江戸っ子の食卓に学ぼう!

ムリな糖質制限やカロリー制限をするより、ごはんをしっかり食べて、味噌、醤油、酢をじゅうぶん活用、旬の魚や野菜を毎日おいしく摂れば、自然に免疫力も体力もアップ。

それが江戸っ子の食事です。

今日から作れるレシピも多数掲載!

<内容>
江戸っ子の教え「その一」……白米を“元気の源”にする
江戸っ子の教え「その二」……「糠漬け」「米のとぎ汁漬け」で万病を防ぐ
江戸っ子の教え「その三」……「豆腐」「納豆」でスタミナをつける
江戸っ子の教え「その四」……和食の神髄「旨み」も、江戸っ子はよい加減
江戸っ子の教え「その五」……「味噌」「醤油」で体の毒を出す
江戸っ子の教え「その六」……「魚」で体をつくり、「肉」「卵」で滋養をつける
江戸っ子の教え「その七」……「野菜」で腸の働きを活発にし、老化を防ぐ
江戸っ子の教え「その八」……「酢」と「日本酒」で食を豊かにしつつ感染症も予防

<レシピより>
八杯豆腐
山かけ豆腐
味噌漬け豆腐
狸汁
鱈の西京漬け
霜降り鰹
卵の黄金漬け
菜飯
芹と鴨肉の小鍋立て
叩きごぼう飯

著者について
車 浮代(くるま・うきよ)
時代小説家/江戸料理・文化研究家。企業内グラフ ィックデザイナーを経て、故・新藤兼人監督に師事 し、シナリオを学ぶ。江戸時代の料理の研究、再現(1000種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壷』などのTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。著書に『江戸の食卓に学ぶ』(ワニ・プラス)、『免疫力を高める最強の浅漬け』(藤田紘一郎と共著/マキノ出版)など多数。小説『蔦重の教え』(飛鳥新社/双葉文庫)ほか。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイ ン」料理監修も。『和食Style.jp 』にて「豆腐百珍の すべて」連載中。

ネットの声

「こういったタイトルの本には雑学系や薀蓄本が多く内容が薄い物が多いのですが、この本は違いました。大量の白米と質素な副菜だけでも健康な身体を保った江戸っ子の食文化を深く掘り下げて解説され、レシピも直ぐに役立つ物が沢山紹介されています。マクロビオティック等よりも実践的だし簡単です。先人に学べば良いのです。」

「江戸時代の勉強に手を取りました。ところが白ご飯恐怖症気味だったところに思わぬ朗報となりました。
もちろん歴史小説などを読む時の参考にもなります!」

「体に良い食材を日常的に食べていれば、薬は必要ないということを実感する内容だった。食のうんちくも盛りだくさんで、子供に話したところ、感心され、株も上がった。」

 

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