脳トレもやり方に気をつけて…“老化が進む人”の残念な習慣

「頭のいい人」とはここが違う…!脳トレをしても「老化が進む人」の残念な習慣

脳機能の中枢を占める前頭葉は新しいことを経験したり、何かに集中したりすることで刺激され、これによって脳が活性化します。

アルツクリニック東京の院長で、認知症が専門の新井平伊氏が解説。

脳の神経細胞は30歳過ぎから減っていく

「脳の神経細胞数は30歳を過ぎた頃から徐々に減少していきます。つまり、新しい刺激がなければ脳は加齢とともにゆっくりと萎縮してしまうのです。
医学の進歩で平均寿命こそ急激に延びましたが、介助を受けることなく自立して生活ができる健康寿命は延び悩んでいます。これは、たとえ身体が元気でも脳の機能が低下したり、認知症を患ってしまうケースが増加しているためです」

新井氏が指摘するように、刺激が与えられなくなった脳の寿命は短くなっていきます。

これは、65歳以降で顕著になるのです。

厚労省が公開した統計によると、日本では65歳以上人口のうち約15%が認知症を患っていると言われています。

65歳を超えた時に脳がどのような状態かによって、その後の健康寿命に大きく差が出てくるのです。

「60代、70代の人の脳はそれまでの人生の通知表だと言えます。脳の寿命は個人差が大きいため、取り組みによって差が開いてしまいます。
しかし、70歳を超えたからもう手遅れというわけではありません。人間の脳は、前頭葉を意識して使うことで、何歳になっても若返らせることができます」(脳科学者の茂木健一郎氏)

「脳トレ」では効果はでない

ここからは、脳寿命と健康寿命を延ばすために取り組みたい脳の使い方の例を見ていきましょう。

前頭葉を意識して使うと聞くと、定期的にブームが訪れる「脳トレ」を想像する方も多いでしょう。

しかし、脳トレを謳う計算ドリルなどに安易に取り組むことは得策ではありません。

これらは文字や数字が変わるだけで、繰り返し解いたとしても、脳に同じ刺激しか与えられないためです。

脳を活性化させるためには、「変化」により新しさを感じることと、自ら取り組みたいと思える「意欲」を掻き立てることが必要です。

それに加えて、達成感や楽しさといった「感情」を刺激できるものを取り入れるべきである。

新井氏が解説します。

「脳トレよりも将棋や囲碁、麻雀といった対人ゲームをやるのがいいでしょう。これらはドリルとは違い、相手がどう動くか予想・推理しなければいけません。相手の手を予想し、過去の経験も参考に判断を下すというのは前頭葉がフル活用されている状況です。意欲や注意機能を司る前頭葉を刺激するのは脳の老化対策として大変効果的です。
一人暮らしなどで対戦相手がいない方は、インターネット上の対人ゲームに取り組むことでも、それなりの効果が得られます」

年齢を重ねてから、何事にも興味を持てなくなったり、関心の幅が狭まったりした人も多いかもしれません。

しかし、精神科医の和田秀樹氏によると、これも脳の寿命を縮める原因になるそう。

散歩で若返るコツ

「加齢により、活動するための意欲が落ちてしまうことは仕方がありません。しかし、これを防ぐ方法があります。『仕事を持つ』ことです。
2020年の調査では、日本で健康寿命がもっとも長い地域は長野県でした。実は、長野県は高齢者で職業を持っている人の割合も日本一となっています。
他人と関わることで感情を刺激し、意欲を持って取り組むことのできる仕事が脳寿命を延ばすことに一役買っているのです。もし仕事が難しいようでしたら、ボランティアでも構わないので、やってみることをおすすめします」

起きてから寝るまで、毎日同じような行動しかしないことも脳の老化を進める原因となります。

生活がパターン化された場合も、脳に新しい刺激が加わらないためです。

そのため、意識していつもと違う新しいことをやってみるのが大切だ。

「散歩も目的意識を持って行うだけで、通常の3倍も前頭葉が刺激される」と語るのは、アルツクリニック東京の院長で、認知症が専門の新井平伊氏。

「散歩の効果を3倍にするコツは、計画、実行、回想という3つのステップを使うことです。前日に、どの道を歩こうかと家族と相談しながら計画する。当日はその計画に従って散歩し、途中で咲く花を見たりお店を覗いたりと楽しみます。
そして、帰宅してからは地図を見直して計画通り歩けたか、どこに花が咲いていたか、お店はどこに寄ったかなどを思い出して楽しむのです。単に散歩するよりも脳の活性化に大きく役立ちます」

新井氏がすすめる計画・実行・回想という作業にも、すべて前頭葉が関わっています。

ひとつの行動にある要素をプラスしていくことで、脳に新しい刺激が与えられるのです。

目標を持ち続けること

料理や楽器の演奏といった、今までと違った趣味を見つけて取り組むのも効果的だ。東海大学情報通信学部の中谷裕教氏が語ります。

「自分にとって不慣れなことをするのは、それがちょっとしたことでも脳へ負荷を与えることになります。
新しく楽器を始めたり、普段運動をしない人がジョギングを始めてみたりした時も前頭葉は活性化されます」

ここまで紹介してきたように、使い方を見直すだけで脳は活性化され、健康寿命も延びていきます。

藤井5冠は王将戦後の一夜明け会見で、現在の立ち位置は富士山に例えると何合目かという質問に対して「まだ頂上が見えないという点では、森林限界の手前」と回答し、取材陣を驚かせていました。

「燃え尽き症候群と同じで、脳は目標を見失うと活性化されなくなってしまいます。
藤井さんのように、決してなくならない目標を持ち続けることが、何歳になっても脳を活性化させ続ける秘訣なのです」(中谷氏)

現代最強棋士のあくなき探求心を見習い、意欲と目標を持ち続けるのです。

これこそが脳の寿命を延ばすことにつながるはずです。



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