作家で「億」は稼げるのか？ 現役作家たちが明かす赤裸々な収入事情と、必要な努力
すこし前、SNSを「ラノベ作家」「8000万円」というワードが騒がせました。
テレビのバラエティ番組が、ラクして稼げるお仕事第1位はライトノベル作家で、平均年収は8085万円と伝えて、ラノベに限らず作家の人たちが「あり得ない」といった反応を見せたのです。
でしたら作家は幾らなら稼げるのでしょうか。
そのような疑問にズバリと答えた本が、架空戦記やラノベを書いて来た吉田親司による『作家で億は稼げません』（エムディエヌコーポレーション）です。
目次
1億円は稼げる…
可能性を言えば、作家でも年に1億円は稼ぎ出せるでしょう。
『作家で億は稼げません』の中で筆者は「本書が七十五万部以上売れれば、僕の年収は億に届く計算です」と書いています。
何がきっかけでミリオンヒットが出るか分からないのが出版界、この本だって可能性はゼロではありません。
そして現実に、億を稼いで『小説家になって億を稼ごう』（新潮新書）いう本を出した松岡圭祐というベストセラー作家が実在します。
『作家で億は稼げません』では冒頭に、この『小説家になって億を稼ごう』について触れ、「近年まれに見る名著」と褒め「作家志望者にとってまさに必読の一冊」と讃えています。
読むと『小説家になって億を稼ごう』は、「アイディア」「プロット」「ストーリー」を組み合わせ、起承転結をつけて小説を書き上げる方法を「手垢がつきすぎています」と退け、「構造」という新概念を提唱しているのです。
それは、手始めに好きな俳優7人をまず選び、それぞれにプロフィールを設定して関係性を思い浮かべ、動かしていき物語へと膨らませていく、といったもの。
漫画や映画やアニメといった、強いキャラクター性と視覚的イメージを持った表現が小説とつながって、お互いに想像力を喚起している時代ならではの創作方法と言えます。
ほかにも、全体を40字×3行で言い表せるか、キャラクターが思い描けなくなった時はどうすれば良いかといったテクニックも満載。
確定申告のやり方に契約の大切さといったヒット後のケアもしてくれていて、これなら億稼いでも大丈夫と思わせてくれるのです。
ただし、問題はその億超えをどの作家の達成できるというわけではないことだ。
努力が必要
それでは作家になる意味はないのかというと、今でも新人賞にはたくさんの原稿が集まり、ネットの小説投稿サイトにも日々新しい作品がアップされ続けています。
その中から本を出してプロになっていったいどれだけ稼げるのでしょうか。
食べていけるくらいに稼ぐにはどうすれば良いのでしょうか。
そのような疑問に答えているのが『作家で億は稼げません』という本です。
そもそも吉田親司とは何者か…。
架空戦記作家でラノベ作家でSF作家で、その著作は100冊を超えます。
新しいところでは「ガ島要塞1942」シリーズ（リュウノベルス）や「ラバウル要塞1943」シリーズ（リュウノベルス）を刊行。
山本五十六元帥がラバウルで戦死していなかったら？といった仮定を元に太平洋戦争を描いて想像力を刺激しているのです。
ラノベも電撃文庫から『MM 記憶師たちの夜明け』を出して、人の記憶を改ざんする技術を持った子と母親によるアクションを見せてくれました。
皇室の内親王、つまりはお姫様が司令官となって祖国奪還に挑む「女皇の帝国 内親王那子様の聖戦」シリーズ（ワニ・ノベルス）シリーズは、やはり皇女が艦長となって米国を模した国と戦う犬村小六「プロペラオペラ」シリーズ（ガガガ文庫）が「このライトノベルがすごい! 2022」で文庫部門5位となった今、萌え架空戦記の先駆的作品として改めて読まれるべき作品です。
それほどの作家でありながら、明かしている年収の最高額は920万円、最低は190万円で億にはほど遠いのです。
もっとも、作家として活動し、どうにか食べていける分は稼いでいると見ることは可能。
そして、『作家で億は稼げません』には、そうなるまでにどれだけの努力を払ったか、そしてどのような努力を続けているかが書かれているのです。
よくよく考えると「小説家になって億を稼ごう」と「作家で億は稼げません」と言う本があるが、今日のトレンドで「年収8000万」ということになって、ある意味の風評被害だな。
— タング/Tangu (@renrontan) January 22, 2022
作家として稼ぐために必要なこと
まずは出だし。
方法として
①新人賞を受賞する
②スカウトされる
③出版社に直接売り込む
以上の3つをを挙げています。
①は当たり前だから②について聞かせてほしいという意見に、いわゆる“なろう系”からのスカウトは順位が重要で、編集者の好みよりも売れそうだからといった営業的な理由から刊行が決まるため、書きたいことは書けないといったアドバイスを送っています。
それでもデビューしたいとブームに寄せても、“なろう系”は“終わったジャンル”になりかかっていると手厳しいのです。
では売り込みは？
これもコネと見つけ出すまでが大変といった意見。
いったいどうすればデビューできるのかを問われ、まずは「原稿に体を張れ」と説き、新人賞を取れと至極真っ当な提案をしつつ、そこから先、どうやって生き残っていくかに話は入っていきます。
著作が出来たら献本しまくれ、なるべく早く仕上げて筆の速い作家だという印象を編集者たちに与えろ等々。
ストーリーやキャラクター、完成までのメドが書かれた企画書を幾つも用意して、採用される機会を増やすことも必要らしいです。
それではそのアイディアは、というところで松岡圭祐『小説家になって億を稼ごう』の執筆メソッドが訳に立つようです。
2冊は決して対立しておらず裏表の関係なのです。
両方読めば、あなたも作家になって「億を稼げる」かもしれません。
作家で億は稼げません 吉田親司(著) エムディエヌコーポレーション (2021/11/29) 1,650円
ベストセラーは出せなくとも小説家として生き残るテクニック
「ベストセラーは出せなくとも好きな本を書いて生きていこう」
……ぶっちゃけた話、『作家で億は稼げません』などというタイトルの本をウッカリと手に取ってしまったあなたは、かなり高い確率で天才ではないと思うのですよ。
しかし、それで正解なんです。本書は、神に愛された天才や、強い運を持って生まれてきたひと向けではありません。
そういった御仁は、放っておいても世に出ていくでしょうし、凡才にすぎない僕が教えられることなど、ひとつもございません。
僕がレクチャーしたいのは「凡才ならではのサバイバル方法」です。やり方によっては長く戦えます。
この本が、天賦の才や運を持って生まれなかった、以前の僕のような小説家志望者の道標になればと思います。
まずは本を出せないと意味がありませんから、ベストなデビューの方法を一緒に考えていきましょう。
〈本書の内容〉
まえあがき――君は生き残ることができるか?
第1章 作家の異常な愛情
・果たして億は稼げるか?
・誰もが新人を求めている
・スカウトとなろう系
・コネを作るのは難しい
・僕のデビュー方法
・新人賞を逃した罪と罰
第2章 原稿に体を張れ
・売れるモノは原稿のみ
・執筆にはパソコンあるのみ
・小説執筆に特化を始めた一太郎
・転ばぬ先の杖ならぬ、転ばぬ先のバックアップ
・新人賞へ投稿せよ
・受賞までのタイムテーブル
第3章 機械仕掛けの編集者
・デビュー作が打ち切り
・献本大作戦
・ハウツー・リライト
・身のほど知らずの野望
第4章 フル・メンタル・ジャケット
・キープ・オン・ライティング
・吉田、ポルノを書く
・ゲラとスケジュールのジレンマ
・陸続たる執筆
第5章 出版と欲望
・ワースト・コンタクト
・トンデモ編集者列伝
・インプットなくしてアウトプットなし
・僕はパクられた
・企画書と離婚
・犬と猫とスカウトデビュー
第6章 アイズ・ワイド・オープン
・戦国架空戦記の衰退
・萌え戦記への傾倒
・女皇の登場
・批評への心構え
・健康こそ執筆の燃料
・コロナに殺された架空戦記
あとあがき――君は修羅場の涙を見る
ほんとうのあとがき 謝辞――あなたに紙のお恵みを
解説――たとえ、億は稼げなくとも 榎本 秋
カバーイラスト 速水螺旋人
ネットの声
「kindleで発売されるのかどうかをTwitterで尋ねた者です。その節はありがとうございました。おかげで、本書を読むことができました。先生の迅速な対応は、本書に書かれていることが嘘ではないのだなという確信を得ることにつながった。
ありがとうございます。
そして、本書はこれからデビューする新人作家にはぜひ読んでもらいたいと思う。デビューはゴールではないのだ。デビューが簡単になったが、生き残るのは困難になった作家という世界で、いかにして生き残っていくのか経験をもとに面白く書かれている。
デビューもしていない身分の人間だが、作家デビューをした暁には、ぜひとも吉田先生の真似をしてあの界隈を生き延びていければいいなぁと思った。」
「そもそも夢のような稼業だとは思っていませんが、やはり業界の裏側を知ると面白い。
大変な業界だということがよくわかる。
好きでなければ出来ない仕事だと思うが、ここに書かれた作家として生きるノウハウは、個人業者全般に
通じることだと思う。
参考になった。」「タイトルから、あの本の反証本であることが一目で分かる本です。
もう一方の本は、まさにハウツー本です。作者自身のノウハウが惜しげもなく書かれた本、それは間違いありません。
が、その通りやれば「億を稼ぐ」作家になれるかというと、そんなに甘いわけではない。社会人ならば分かるかと思いますが、誰かの成功体験の裏には、その人の能力であったりとか、運や環境も作用します。
その辺りを泥臭く、ありのままに書かれたのが、この本であると思えば、ちょうどいいかと思います。
ノウハウ本というより、ある作家の物語としても読めるので、こちらの方がお勧めでしょうか。」
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