セックスロボットと人造肉 快適さを追求した先の未来とは

ひとりひとりが、それぞれの嗜好(しこう)に合わせたAI搭載のセックスドールを持ち性欲を満たす。

赤ん坊はバイオバッグの中で育つため、「妊娠」と「出産」は不要。女性はキャリアを中断する必要はない。

「セックスロボットと人造肉」 [著]ジェニー・クリーマン

ひとりひとりが、それぞれの嗜好(しこう)に合わせたAI搭載のセックスドールを持ち性欲を満たす。赤ん坊はバイオバッグの中で育つため、「妊娠」と「出産」は不要。

女性はキャリアを中断する必要はありません。

テクノロジーで肉は培養されるので、肉を食べるのに動物の権利も、環境破壊も気にする必要はないのです。

大好きな景色を見ながら、自分の望むタイミングで苦痛なく死ぬことができます。

こんな世界が到来したら皆さんはどう思うでしょうか。

大半の人が気味悪いとか、人間らしさの否定であるとかいった意見を持つのではないでしょうか。

しかしこのような否定的反応は新しいテクノロジーに対する人間の常なのです。

過去を振り返れば映画や本ですらそのような憂き目を見ているし、無痛分娩(ぶんべん)は「自然分娩」に劣ると考える人は未(いま)だにいるのです。

翻って、本書で紹介される起業家や研究者はこれら忌避感にこう返答する。世界には一般的なやり方で誰かと親密な関係を築くことが難しい人たちがいます。

セックスドールはそんな人たちを幸せにするんだ。妊娠と同様の症状をもたらす病気があったら、それは重病とみなされるでしょう。

なぜ妊娠に伴う数々の不調を技術で取り払ってはいけないのでしょうか。

本人の意思の尊重がこれだけ叫ばれるのに、なぜ死ぬときだけそれが許されないのでしょうか。

「人間らしさを損ねる」「自然に反する」といった古典的カードを切ることなく、あなたはこのように主張するかれらと論理的な議論ができるでしょうか。

人は、身体機能を技術によって外部化し、生活を快適にし続けてきました。

手ではなくハサミを使います。

足ではなく車を使う、といったように。そう考えると本書で紹介される諸々(もろもろ)の技術はその延長線上に過ぎません。

とはいえ、どこまで快適になれば私たちは気が済むのでしょう。

その意味で、読後ため息が出た一冊です。

セックスロボットと人造肉  ジェニー・クリーマン (著), 安藤貴子 (翻訳) 双葉社 (2022/8/25) 2,750円

テクノロジーは性、食、生、死を“征服”できるか

人間性の根幹ともいえる領域に、科学はどこまで介入を許されるのか?

そして、科学にすべてを委ねたとき、私たちの人間性はどうなるのか?

本書は「テクノロジーがすべてを解決する、バラ色の未来」を称揚するものではありません。

その最前線で研究、ビジネス、議論を続ける人たちを取材しながら、むしろ「それらは本当に『問題』を解決するのか?」「高度に発達したテクノロジーは、私たちの生命倫理や人間観をどう変えてしまうのか?」という問いをたてるものです。

・高性能AIを搭載し、性欲や孤独を満たすことを含む「あらゆる欲望を叶えてくれる理想のパートナー」に見えるロボットは、人間から他者を尊重し健全な関わりを持つ能力を奪うことにならないか?

・動物を殺さず、良心の呵責もなく食べられる「最初から命をもつことなく作られた食肉=培養肉」は果たして本当に地球環境や動物の権利を守り、私たちの食文化をよりよいものにするのか?

・誰ひとり妊娠も出産もせずに子供を持てる「人工子宮」はわが子を求めるあらゆる性・あらゆる事情の人の福音になりうるが、一方で女性の自己決定権を危うくもするのではないか?

・自らの生命をいつでも、簡単に、快適に終えることのできる尊厳死マシンを作り、超高額で売ろうとする人たちは、「満たされた死とは何か」という問いに対する答えを持っているのか?

こうした命題とともに展開されるルポルタージュを読み進めるにつれ、我々に耳なじみのないテクノロジーの最前線を紹介する本ではなく、むしろレトロスペクティヴな未来像、我々がこれまでに親しんできた数々の創作やディストピアSFが現実化した近い将来の世界の青写真を見ているような気持ちになるかもしれません。

マーガレット・アトウッドやジョージ・オーウェル、オクテイヴィア・E・バトラー、村田紗耶香、カズオ・イシグロ、伊藤計劃、新井素子、手塚治虫、萩尾望都、スパイク・ジョーンズ、リドリー・スコット、早川千絵、あるいは小島秀夫……。

数えきれないほどの作家の想像力を刺激してきた「生命科学、管理社会、資本主義が行きつくところまで行った世界で、私たちの人間性はどうなってしまうのか?」という問い。

本書が描くのは、それが今まさに現実のものとなろうとしている、倫理のフロンティアの風景。そして、現在の社会構造のまま技術だけが先行してしまえばその果実や恩恵は少数の富める者に独占されていくにすぎないのではないかという警鐘も込めた、近未来のガイドブックといえます。

[目次]

PART1 セックスの未来:「完璧な伴侶」よ、眼ざめよ
第1章「魔法が生まれるところ」
第2章 幻想のパートナー
第3章「ロボットなら痛くもかゆくもない」
第4章 人のようなモノ、モノのような人

PART2 食の未来:クリーンな肉、クリーンな心
第5章 牛の強制収容所
第6章 肉を愛するヴィーガン
第7章 あっちの水はにがいぞ
第8章 支配欲の味

PART3 生殖の未来:母胎のいない子どもたち
第9章 妊娠ビジネス
第10章 バイオバッグ
第11章 非の打ちどころのない妊娠
第12章「もう女に用はない」

PART4 死の未来:機械仕掛けのメフィスト
第13章 死のDIY
第14章 「自殺界のイーロン・マスク」
第15章 「完璧な死」とは何か

装丁・デザイン:畑ユリエ

著者について

著者:ジェニー・クリーマン
イギリスのジャーナリスト、ドキュメンタリー製作者。
『ガーディアン』『トータス』『タイムズ』『サンデー・タイムズ』などに記事を執筆。これまでBBC One「パノラマ」、チャンネル4「ディスパッチーズ」、HBO「ヴァイス・ニュース・トゥナイト」の記者として活動したほか、チャンネル4「アンレポーテッド・ワールド」で13のドキュメンタリーを製作。現在はタイムズ・ラジオ「ブレックファスト」の司会(金曜~日曜日)を務めている。本書が初の著書となる。

訳者:安藤貴子(あんどう・たかこ)
英語翻訳者。
訳書に『シリコンバレー式 心と体が整う最強のファスティング』(CCCメディアハウス)、『ロケット科学者の思考法』(サンマーク出版)、『無人戦の世紀』(共訳、原書房)、『約束してくれないか、父さん』(共訳、早川書房)、『私たちの真実』(共訳、光文社)など。

ネットの声

「第一章セックスロボット読了。まだ1/4しか読んでいないが、著者のテクノロジー憎しが面に出過ぎており、読んでいる際のノイズになってしまっている。インタビューの時も喧嘩腰だったり、可哀想やわこいつ、みたいなスタンスを取っているので勿体ない。以降は気が向いたら追記する。」

「著者はこの本がデビュー作とのことだが、もっと視点の広いライターであれば、より示唆に富んで知的思索に満ちた本になっただろう。読む前の期待感に反して、著者の実力不足が目立った残念な一冊。」

「まさに、今の時代に読みたいテーマ。セックスロボットも、人造肉も、賛否はどうあれ、確実にそっちに向かっていくと思う。現時点の最先端情報や、今後の開発、そして近未来の社会に与える影響、あたりが書いてあるものと、勝手に想像して読み始めた。しかし、この本は、現時点で研究開発している人たちへの細かいインタビューがメイン。そして、著者かやや保守的なのか、よく聞くようなテクノロジー批判っぽいスタンスが、正直あまり面白くない。いいか悪いか別にして、最新技術の未来予測や社会への影響を知りたかったので、ちょっと期待とは違う内容だったかな。」

 

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