いくら食べても太らない人に隠された秘密

「脂肪」と聞いて、よいイメージを思い浮かべる人は少ないでしょう。

食べすぎてジーンズの上に乗っかったお腹を見て落胆したことは、誰もがあると思います。

メディアや広告でも、「ダイエットをして、醜い体脂肪とお別れしよう!」「スリムになって、新しい人生を手に入れよう!」と、現代において脂肪は立派な「悪者」に仕立て上げられています。

ですが、「脂肪は私たちの体に欠かせない、重要な器官です」と語るのは、医師で医学博士のマリエッタ・ボンとリーズベス・ファン・ロッサムです。

脂肪は、食欲を抑えたり、健康を維持したりするために必要なホルモンを産生してくれます。

健康的に痩せたいなら、脂肪についての正確な知識を持ち、最大限に利用することが重要です。

太りやすさを決める隠れ代謝と遺伝とは?

飲み会に参加したあなたは、隣のとても痩せた人を見て思います。

「この人、かわいそうに。キュウリしか食べていないんじゃないかな」

けれど、すぐに予想は裏切られます。

その人はあなたの2倍の量をぺろりと食べ、ビールを2杯飲み、クラッカーの山とパテまで平らげてしまいました。

じゃあきっと、体型維持のために運動をしているはずだ。

そこで、あなたはその人に「スポーツはされるんですか?」と尋ねます。

すると、驚きの答えが返ってきました。

「スポーツは全然好きじゃないんです。犬と散歩に出るのは好きですけど、スポーツはちょっと無理ですね……」

人より多く食べ、しかも運動も全然しないのに「太らない人」がいます。

その秘密は「隠れ代謝」と「遺伝」に隠れているのです。

1日のエネルギー消費は3つに分けられます。

全体の60%を占めるのが、休んでいるときの心臓の鼓動、体温の維持、脳の活動の維持などによる「安静時代謝率」。

10~5%を占めるのが、食べたものを消化して栄養素を吸収し、余剰脂肪や糖を蓄えるためのエネルギーを生む「食べものの熱産生」。

そして3つめが「活動性熱産生」です。

これは、歩いたり話したり、仕事や運動などの活動に使用されるエネルギー量を指し、エネルギー消費全体の25~30%を占めます。

この「隠れ代謝」ともいえる活動性熱産生に、運動をしなくても太らない人の謎の答えが隠されています。

ここで重要なのは、彼らが運動しないように「見えている」という点です。

自分では気づいてはいなくても、蓋を開けてみると身体的活動量が多い人がいるのです。

同じ職場で働くクリスとジョージを比べてみましょう。

クリスは40代半ばで少し太り気味。

事務仕事で1日中デスクに座りっぱなしで、昼食のときだけ食堂に行きます。

同僚のジョージは50代になったばかりで、痩せています。

45分ごとに10分間の休憩をとり、その時間に水をコップ1杯飲み、同僚に質問しに行ったりします。

ときには立って仕事をすることもあります。

クリスとジョージの仕事内容は同じですが、ジョージの日々のカロリー燃焼量はクリスよりも多く、デスクに座って仕事をするクリスが1時間に80キロカロリーほどの燃焼であるのに対し、立って仕事をするジョージは100キロカロリーほど燃焼しています。

欧米社会では、人々が座っている時間は平均して1日12時間といわれます。

睡眠時間が7時間と仮定すると、合計19時間、座っているか寝ていることになります。

座る時間が長いほど体重は重くなり、糖尿病や循環器系の病気リスクも高くなってしまいます。

では、私たちはこの生活様式をどうしたらいいのでしょうか??

数年前、オランダの研究者たちがある調査を行いました。

調査には3つのグループが参加し、1つは、1日に14時間ずっと座っているグループ。

2つ目のグループは13時間座り、最後の1時間に運動します。

そして3つ目のグループには8時間座り、4時間歩いて、2時間立ってもらいました。

どのグループの代謝が一番良いかを調べるために、砂糖入りの飲みものを飲んでもらい、含まれるグルコースの処理度合いを測定しました。

座る時間が長いほど体重は増えていく

「ずっと座っていた人たち」が最下位だったのは自明です。

しかし驚きだったのは、1時間運動したグループよりも、座る時間を8時間に減らしたグループの結果が良かったことです。

調査開始後、たった4日間でその差は現れました。

この調査でわかることは、少しの運動をしても、座りっぱなしの害悪は消し去れないということです。

それよりも、足をぷらぷらさせたり、クリップや事務室の備品をいじったりと、細かい動作を継続するほうが、代謝は高まるのです。

こういう細かい動作が多い人たちを英語で「フィジター(fidgeter)」と呼び、痩せている人たちは肥満の人に比べて、細かい動きを習慣的に行う人が多いという研究結果もあります。

つまり「活動性熱産生」の差が、太りやすいかどうかの差を分けていたのです。

可能なら、デスクの高さを調節して立って仕事ができるようにしてみましょう。

同僚に変な目で見られたら、「ウィンストン・チャーチルは、スピーチの原稿をいつも立って書いていたんだぞ」と言えば大丈夫です。

太りやすい人と、そうでない人の差に潜むもう1つの要因は、「ストレス」です。

ストレスを感じると、視床下部が動き出し、そこから分泌された物質が下垂体に信号を送ります。

それを受けて、下垂体は異なる種類の調節ホルモン(ACTH)を分泌し、それが血中を旅して副腎に届きます。

そして副腎はストレスホルモン「コルチゾール」を血中に多く分泌します。

コルチゾールは心臓の脈を速くし、短時間で血圧を急上昇させます。

より多くの糖や酸素を脳などの臓器に注ぎ込み、頭をフル回転させ、思考をはっきりとさせるためです。

腹を空かせたトラに突然遭遇したときは、急いで逃げなければなりません。

ストレスを感じるとコルチゾールによって糖が筋肉に注がれ、エネルギーと動作に変換されるのは、そんなときには欠かせない機能なのです。

驚くべきことに、このストレスの流行と肥満の流行の発生時期は、ほぼ重なっています。

現在、世界の成人人口の39%が肥満といわれますが、ストレスが肥満要因になりうることが、科学的にどんどん裏づけられているのです。

それでは、ストレスはどれほどの影響を与えるのでしょうか。ある女性の例を紹介します。

ミーラは41歳の小学校教師。夫のジェイコブとの間に3人の子どもがいます。

ジムに定期的に通い、毎日自転車通勤していましたが、ここ数年、体の異変に気づくようになりました。

「筋肉が日に日に弱くなって、体重も増え、お腹には赤紫の肉割れが浮き出てきました。

顔もむくんでしまい、頬が真っ赤で、チークカラーも必要なくなりました。

服のサイズも9号から11号になり、生理不順になりました」

夫も彼女から距離をとるようになり、ある日、爆弾を落としました。

ミーラにはもう魅力を感じないと告げたのです。

数カ月後、彼女は深刻な腸炎で入院しました。

いくつもの病院で検査が行われた結果、副腎内部に塊があり、過剰なコルチゾールを休みなく分泌し続けていることがわかりました。

つまり、ミーラの体内をコルチゾールがつねに駆け巡り、多様な症状を引き起こしていたのです。

ストレスホルモンによる身体への影響

ミーラの例からわかるのは、長期間続く高いコルチゾール値は、私たちの健康を損ないかねないということです。

極度の慢性的ストレスによって身体がコルチゾールを過剰に分泌すると、体脂肪を含む身体のいたるところに、下記のような影響が現れてしまいます。

・短期間で腹まわりの脂肪が増加し、首の後ろに脂肪の塊がつ
・顔はぷっくりとしていくのに、足と腕の皮下脂肪は減少する
・筋肉量も減少し、足と腕の力が衰える
・血圧が上がり、コレステロールと糖代謝が乱れ、気分が落ち込みがちになる
・肉割れ、ニキビができ、敏感肌になり、あざができやすくなり、傷が治りにくくなる
・女性の場合、生理周期が不順になり体毛が濃くなる

ストレスの受け止め方には個人差があります。

愛するペットが死んで何か月も嘆き悲しみ、不眠や動悸を経験する人もいれば、親愛なるパートナーを亡くしたのにすぐに立ち上がり、身体的な症状を抱えず、日課をこなす人もいるのです。

これにはコルチゾールを受け取る「受容体(ホルモンの受け入れ場所)」が関係しています。

コルチコステロイド受容体と呼ばれる受け皿が体内の体細胞のすべてに存在していますが、この感度が主に遺伝によって生まれつき決まっているのです。

研究によると、人口の約半数が特殊な遺伝子変異を持つコルチコステロイド受容体の保有者だといわれています。

さらに興味深いことに、コルチゾールへの感度が高い変異遺伝子を持つ人は、お腹が出ていて、コレステロール値が高く、糖代謝が悪く、筋肉量が少なく、うつ病のリスクが高いという結果も出ています。

それに対し、人口の5?10%の人が、コルチゾールへの感度が鈍い変異遺伝子を有しています。

例えば男性でこの変異遺伝子がある人は、筋肉量が多く、強度も高く、高身長です。

女性の場合はウエストが細く、また男女ともに、糖尿病になりにくかったり、コレステロール値が低かったりしています。

この「隠れ代謝」と「遺伝」の差によって、たとえ同じ年齢で、同じものを食べ、同じ生活スタイルを保持し、同じくらいのストレスにさらされたとしても、太る人と太らない人がいるのです。

痩せる脂肪 マリエッタ・ボン (著), リーズベス・ファン・ロッサム (著), ローリングホフ育未 (翻訳) クロスメディア・パブリッシング(インプレス) (2021/12/24) 1,958円

もっとも誤解されている器官の驚くべき事実

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「脂肪」は私たちとって、「悪者」ではなかった……。
世界的権威が教える、「脂肪」と「肥満」に隠された
驚くべきファクトとフィクション!

テレビでも雑誌でも、あらゆるメディアが同じようなメッセージを発信しています。

「ダイエットをして、醜い体脂肪とお別れしよう! 」
「スレンダーになって、新しい人生を手に入れよう! 」
「このサプリメントを飲めば、あっという間に体脂肪が減る! 」

現代において「脂肪」は、立派な「悪者」に仕立て上げられています。

ですが、その脂肪について私たちは、なにを知っているのでしょうか?

じつは脂肪は、人間にとってなくてはならない「器官」なのです。

悪者どころか、私たちを痩せさせてくれるのもまた、脂肪だったのです。

本書では、脂肪に隠された驚くべき機能や、人間にとっての必要性、さらには肥満との関係性やリスクなどを、科学的な知見から分かりやすくお伝えします。

「脂肪」と「肥満」に翻弄された15人のストーリーも交えて、脂肪とうまく向き合い、健康的に対処していく方法も紹介します。

・“あるホルモン”が肥満を解消する
・脂肪は“妊娠”のために欠かせない
・お尻の肉より“お腹の肉”のほうが危険
・褐色脂肪を刺激すると“痩せスイッチ”が押される
・“7時間以下”の睡眠で、食欲が増す
・“朝9時半”までの朝食で、痩せ体質になれる
・プラスチック製品が肥満を引き起こしていた?
・“アデノウイルス36″が肥満を引き起こしかねない

きっと、あなたの常識は180度変わります!

【目次】
第1章:脂肪の歴史を見てみよう
第2章:脂肪は「貯める」ために必要な器官
第3章:脂肪はホルモン工場
第4章:太ると病気になり、病気になると太る
第5章:なぜ空腹や満腹になるのか?
第6章:めくるめく代謝の世界
第7章:脂肪と私たちのバイオリズム
第8章:ストレスで太るのはなぜ?
第9章:肥満の隠れた原因
第10章:肥満と効果的に向き合うには?
第11章:肥満への偏見が、精神に与える影響

著者について
マリエッタ・ボン
医師。医学博士。内科の専門医。ライデン大学メディカルセンターで、脂肪を燃焼する「褐色脂肪」について研究している(ライデン大学は、アインシュタインも卒業しているヨーロッパ最古の大学)。60以上の共著書があり、自身の研究によって数々の名高い国際・国内賞を受賞している。

リーズベス・ファン・ロッサム
医師。医学博士。オランダのロッテルダムにあるエラスムス大学メディカルセンターの内科医・内分泌学者、教授。アメリカのボルチモア、オランダでの長年の研究により、肥満とストレスホルモンの専門家としてのキャリアをつんだ。肥満の根本原因の診断と、減量のためのオーダーメイド治療法の診断において国際・国家的に指導する地位を持つ肥満センターCGGの創設者。近年はオランダ国内の肥満対策について厚生労働省に助言も与えている。欧州内分泌学会で肥満、糖尿病、栄養、代謝など科学分野のリーダー。130以上の出版物や、書籍への寄稿を発表し、TEDxなど、ストレスや肥満の分野で多数の講演を行っている。2016年には「肥満流行の解決策」を発表し、自身の研究により20以上の国内賞を受賞している。

ネットの声

「原題の通り、脂肪がOrgan(器官)だということ(驚)や人が太ったり痩せたりするいくつものメカニズムなど、改めて知ることもあり、とても興味深く読むことができました。

残存する(白色脂肪でなく)褐色脂肪のスイッチを「オン」にして、可能な限り活発にさせることで、1日に200キロカロリーを余分に燃やすことができることや薬に含まれているコルチコステロイド等を複数同時に使用すると、脳を経由して副腎に働きかけ肥満につながる可能性があることなど、健康的に過ごすために、いくつか覚えておきたいこともありました。

「脂肪」や「肥満」について、一度、情報として体系的に整理しておきたいという方や、なぜそうなっているのか?どうしたらよいのか?といった機序を知りたい方は、一読されると、これから役に立つと思います。」

「コロナ禍でめっきりと運動の機会が減ってしまい、減量する必要性を感じて本書を手に取った。知っていることも多かったが、復習も兼ねていい勉強となった。
食事については、すでに実践していることがほとんどだったので、読むことで安心することができた。
睡眠については、正直なところ時間が足りていないことに気づいた。睡眠が足りないとどのようなことが起こるかについても記載してあり、分かりやすかった。
運動については、WHOの推奨について書かれていたが、実際のところ、ハードルが高いように思えた。とはいえ、有酸素運動、筋トレは必要であることは確かなので、実践していこうと思う。」

 

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