タクシー運転手にとって芸能人は上客のはずだけど…

タクシー運転手が明かす「私が乗せた芸能人のホントの素顔」

新型コロナウイルス蔓延により、未曾有の危機に晒されたのがタクシー業界です。

一時的に収入は半分以下に落ち込み、職をあぶれた者も多く生まれました。

『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』では、そんな激動の時代を迎えた業界のリアルと未来を綴った。

支払いの時に急変…!

東京駅を拠り所にするベテランドライバーの鎌田さん(仮名・50代)に、最も印象に残った乗客を聞いてみました。

甲子園で名を馳せた後にプロ野球でもエースとして鳴らし、引退後もバラエティ番組に引っ張りだこだったZさんの名前が上がってきました。

「私ね、大のヤクルトスワローズファンなんです。勤務中もスワローズのラジオを聞くのがルーティングで。だからプロ野球界には詳しいんです。この仕事をしていると野球選手に出会うことは珍しくない。これまでも軽く十人以上は乗せてきたんですが、共通しているのは結構金払いがよくて、『釣りはとっといて』というような人が多いということなんです。
ただ、Zさんは全く逆のパターンだったんですね。もう引退して随分立つ方ですが、とにかくケチで、すごく値引きをしてきて(苦笑)。あの時は、繁華街から宿泊されているホテルに送迎させてもらい、料金は12000円程度だった。車中ではご陽気な様子で、『俺のこと知ってるでしょ』と話しかけてもらって和やかな雰囲気でした」

そんな様子が一変したのは、支払いの時だったそう。

「突然、『財布に1万円しかないからマケて』と言ってきたんです。それは無理ですよ、と何度説明しても、『俺とのトーク代と思えば安いもんやろ』とワケのわからないことを言い出し、声を荒らげだしたんです。ホテルについても、そんなやり取りが20分くらい続いた。時間をとられる分だけマイナスなので、結局こちらが折れて2200円分を割引き9800円にしたんです。そしたら、1万円を渡されて『釣りはとっといて』と言われて、呆れてしまった(笑)。差額分ですか?もちろん自腹です。最近テレビで見る機会が減りましたが、その理由が何となく分かる気がしますね」

都内で活動する個人タクシーの山田さん(仮名・60代)は、多くのVIP客を持つ優良ドライバー。

普段は六本木や麻布周辺が縄張りだが、時にテレビ番組撮影の際に自宅からの送迎を行うこともあるそう。

タクシードライバーの休憩場所である青山霊園にいた山田さんに事情を聞くと、日本滞在も長い外国人タレントQの名前が上がりました。

「彼は東京近郊に豪邸を構えておりロングの移動が多い、いいお客さんでした。都内までの距離が長いからか、よく大型車である私の車を指定してくれた。それでよく話すようになったんですが、テレビで見せる三枚目な顔とは全く異なり、一流のビジネスマンという印象を受けました。自分でも事業を展開しており、テレビはあくまで副業だと漏らしてました。日本だとテレビに出ているというだけでいい宣伝になる、とも言ってましたね。『日本の芸能界はチョロいよ』と(笑)」

Qは近年ではある不祥事を期に、メディア露出が滅っています。

改めてどんなところが印象深かったのかを聞いてみました。

「大抵の芸能人は、車中では携帯を触ったりで、ほとんどが私達なんか相手にしないわけです。ただ、彼の場合は気さくに何でも話してくるし、私と話してない時は電話で事業の指示を出していたりした。テレビとも話し方が全然違って、すごく流暢な日本語で(笑)。最近依頼がなくなったのですが、また会いたいな、と思わされる人間性がありましたね…」

とにかく下品な話の連続で…

時に横暴な態度を受けて不快な思いをしたケースもあります。

品川駅を拠点にする浅村さん(仮名・50代)は、品川駅から某TV局の収録場所へと送り届けることがあるそう。

その際に乗せた現在売り出し中の女芸人Xの車中での様子を見て、怒りを覚えたというのです。

「あの当時はまだ売れてなかったんですが、最近よくテレビに出ている方です。マネージャーと一緒に乘ってきて、とにかくマネージャーにダメ出しばかりしているんですよ。『お前は本当使えねーな』とか、罵詈雑言を浴びせまくっていて。それで若いマネージャーが、『すいません、すいません』と平謝りをしている姿をみて、可哀想になってきちゃって。

私にもドライバーさんもそう思いませんか、と話しを振ってきて、『もうやめてあげて下さいな』と言うと露骨に嫌な顔をされて。他にも自分が通い詰めているホストの話し、いつセックスしたとかとにかく会話が下品で辟易しちゃって。正直、もう二度と乗せたくないですね」

一方で、ドライバーが勇気づけられたというハートウォーミングな逸話もあります。

名古屋駅の新幹線口乗り場で営業する秋田さん(仮名・70代)は、関西出身のキャスターSを乗せた際に、そのギャップに驚かされたと明かしてくれました。

「私ね、元々そのタレントさんがどうしても好きになれなかったんです。コテコテの関西弁で、ザ・関西!みたいな人で。だから乗せた時にすぐ分かりましたよ。こちらで番組撮影だったのか、名駅(名古屋駅)から某テレビ局まで送った。車中では『名古屋の景気はどうですか?』とか他愛もない会話をかわして、厳しい売上げを伝えると会計の際に1万円を出して『お釣りはチップやから。これで上手いものでも食べて』と。7000円分くらいだったかな。

私達にそういう態度ということは、この人は普段からそういう人なんだと思いましたね。そこからその人だけじゃなくて、私の中で関西人に対する印象も良くなって(笑)。今でもテレビに出ると思わず見ちゃうし、あれ以降応援するようになりました」

最後に永田町関係者の社交場でもある、赤坂、銀座を拠点とするタクシードライバーの話しを紹介します。

高橋さん(仮名・50代)は、今年2月に政治家の銀座のラウンジ通いが報じられた前後に、某国会議員を盛り場から議員宿舎に送迎したそうです。

「報道されたのは与党の方でしたが、野党議員も2人ほど乗せましたね。場所は銀座です。まだ問題が表面化する前で、『外でお金を落とすのも我々の仕事』と上機嫌でした」

その後世間ではバッシングを受けたのですが、高橋さんは不思議と嫌な感情は沸かなかったそうです。

その理由はタクシードライバーならではの観点でもあるのですが…。

「『政治の世界では大事な話は酒の席でしか進まない』というのは飲むための方便なんでしょうが、不平不満ばかり言ってお金を使わない人よりも、私達にとってはお金を使ってくれる人の方がいいわけなんですよ。どこか人間臭くて、嫌いにはなれなかったですね」

街を彩るテールランプの数だけ、乗客との間で紡がれる人間ドラマがあるのです。

『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』 栗田シメイ(著) 扶桑社 (2021/9/2) 946円

タクシー業界の売り上げは各社とも、2019年からの昨対比で最大50%超の減少、身売りや従業員の強制解雇を強いられた企業も出た。

さらにタクシー運転手の平均年齢は60.1歳と超高齢化(2018年時点)。2015年に全国34万人いた乗務員の数は、2020年には28万人と激減している。

こうした市場縮小のさなかに訪れた新型コロナウィルスというさらなる厄災、それによる東京五輪特需やインバウンドの霧散……未曾有の苦境をタクシー業界はいかにして乗り切ったのか。

ほか、外国人、女性、二束草鞋など、多様化していくドライバーたちの働き方と自由化問題、そしてロイヤルリムジン600人解雇騒動のその後、白タクの跋扈、配車アプリの台頭問題にも迫る。東洋経済オンライン人気連載を大幅加筆した渾身のルポ。

「新型コロナウイルスの影響下、今のタクシー業界が実に良く分かりました。これからタクシードライバーを目指す人にも凄く参考になると思います。」

「コロナ禍であえぐタクシー業界の実態に鋭く迫ったルポタージュである。東京都心、成田空港、大阪、名古屋などの全国各地の現状や、様々な経歴を持つ運転手、更に女性運転手や外国人運転手など多彩な運転手さん達の生の声が赤裸々に書かれており、人手不足やコロナ禍など様々な逆境の中で生きるタクシー業界の人々のたくましい生き様がストレートに伝わってきて興味深い一冊である。」

「データを切り張りするような分析記事とは異なり、これでもか!とドライバーたちの声が盛り込まれているところに筆者の熱量を感じる。なかには有名ドライバーも登場するが、大半は名もなきドライバーだ。しかし、そうそう顔も名前も覚えられることのないドライバーたちの言葉が機知に富んでいる。」

ネットの声

「以前、博多駅からタクシーに乗ろうとしたら、行き先を言うとキレられた。ここにずっと並んでたのにそこまでか!と言われた。客も運転手もいい人もいれば酷い人もいる。」

「現役の都内タクシードライバーです。
私はプロの矜持としてお客(著名人)の悪い話は同僚にしか話しません、外部に話すなどもっての外と考えています。同僚に話すのは業務上の情報としてで有り、抜け道の情報等と同じ考えです。
ただ、良い話はあちこちで話しますよ、私が所属するのは東京でも大手と呼ばれる会社ですが、多くのドライバーから聞く話で、誰一人悪口を言わないと言うより、皆が口を揃えて良い人だったよと言うのが実はあの石田純一さんなんです。」

「金払いのいい人、釣り銭をチップにする人は普段からそんな人だと思う。恐らく、後輩の面倒見もいいだろうし、スタッフからの受けもいいと思う。だから、仕事も多いから稼いでいるだろうから金払いもいいのだろう。好循環ですね。逆だと、スタッフ受けが悪いと仕事も少なく、金払いも悪くなる。金は天下の回りものとはよく言ったもんですね。」

 

おすすめの記事