ホンダはF1撤退を撤回したの?

「ホンダワークスF1撤退を撤回!」はホントなのか…その真相を考察してみました。

先日レッドブル首脳のヘルムート・マルコが「ホンダは思い直し、今まで通りF1PUの開発製作に2026年まで全面的に係わる」とコメントしました。

「ホンダワークスF1撤退を撤回!!」といった見出しがセンセーショナルに世界を飛び交ったのですが、これはいったいどういうことなのでしょうか。

元F1メカニックの津川哲夫氏にその辺りの事情を語ります。

PUの製作・開発はサクラ、サポートはミルトンキーンズのHRC

この「ホンダワークスF1撤退を撤回!」 のニュースはセンセーショナルに聞こえるのですが、中身をじっくり吟味すれば何のことはない、最初からの契約と大きな変化はないのです。

確かに初期予定では、2022年以降はホンダPUをRBP(レッドブル・パワートレインズ)に移管し、その後のメンテナンスと管理をRBPで行うアイデアではありました。

しかし比較的早い段階でミルトンキーンズのHRCで作業を続け、PUの製作・開発はサクラでという、今まで通りの方式は決まっていたのです。

※サクラ…HRD Sakura(Honda Research and Development)は、ホンダレーシングの技術開発を行う製造・研究施設の事。2015年のF1復帰に際して栃木県さくら市に新設され、2014年から正式稼働した。F1をはじめとして、SUPER GTやWTCC、スーパーフォーミュラに関するプロジェクト業務を一手に引き受ける。

マルコはその状況を、言い回しを変えて説明しただけのこと、新しいニュースではありません。

実際、初期アイデアはPUをそのままRBPに投げ出す話でした。

それがサクラとHRCが大幅に係わるという変更があり、マルコはその変更の経緯でホンダが考えを変えたと言っているのでしょう。

どちらにしても新しいことではなく、ホンダからもこの件に対して何のコメントもありません。

既に説明されている契約内容なので、コメントしようがないというわけです。

ほぼワークス体制の方式を選んだホンダの思惑とは

第一には昨年勝ち取ったチャンピオンを今シーズンも維持しなければならないので、まだ立ち上がらないRBPへ本気で技術的移行をしていてはチャンピオンをディフェンド出来ないと考えたのでしょう。

また、昨年前倒しで投入したPUには燃焼やバッテリー、ターボ等に多くの斬新な開発が行われ、これが大きく成功しており、この先進技術のノウハウをRBPにそのまま開示してしまうことにも問題がありそうです。

なぜならレッドブルは、ホンダ以後にVWグループとの係わりが見えてきたからです。

特に特許にいたるバッテリー技術や燃焼技術は、しばらくホンダで保っておきたい部分でしょう。

こう考えれば名目はどうあれ、ホンダの係わりを2026年まで継続させるのは当然のことに思えます。

ホンダはPUのRPBへの移管を「知的財産」としての移管……と説明していました。

カスタマーエンジンとしてF1に残ったワークスエンジンのその後

これまでも多くのエンジンサプライヤー達がワークス活動の終了とともにエンジンを他に移譲しワークス名を削り、移譲された側のバッジに替えられる例は数多く存在しています。

もちろんそれぞれ内情は違っているのですが、ワークスからプライベーターヘの移譲の裏はみな似たようなものです。

古くはワークスプジョーがアジアテックヘ、旧BMWターボがメガトロンヘ、ルノーはプレイライフへ、などなど。

カスタマーエンジンとしてお金を払ったのだからバッジを替えるという方法をとるチームもありました。

レッドブルがルノーエンジンにアストンマーチンのバッジを付けたのはまだ記憶に新しいところ。

これらの多くはエンジンサプライヤーとチームの力関係を物語っています。

どれもワークスの威力が無くなってから起こる現象が殆どです。

エンジンサプライヤーは撤退後も人材の雇用面に神経を使っている

フランスやドイツ、イタリアなど労働規約のうるさい国では、自動車会社などがワークスとして企業内の一部門でエンジン開発を行ったならば、そのプログラム終了に伴いスタッフが不必要になったからといって勝手にリストラしてしまうわけにはいかない、という事情があります。

それなりの就業保証とか、本当に企業内にそのスタッフの専門職がないのかを検討する必要があるわけです。

もしあればそのスタッフをそれらの場所に就業させなければならない……とか。

もし再開した場合はそれらのスタッフを優先的に再雇用するとか。

もちろんリストラ後の賃金保証など、法的に面倒で膨大な作業が必要になってくるのです。

ワークス活動が終了する前に、エンジン部門のスタッフやインフラごと、そのまま売却してしまえばスタッフをリストラせずに済みますし、スタッフ達の仕事もそのまま継続されます。

さらに売却後、購入会社が上手く行かず倒産等に至ったとしても、それはその会社の問題であって、売却したメーカーの問題ではありません。

したがって理由はともあれワークス終了間際の売却は、メーカーの責任逃れの後始末だったりするのです。

またバッジの変更にはエンジンを供給するワークス側の力が弱まり、お金を出して供給を受けているチーム側が強気に出るという現象が散見出来ます。

実際作っている自動車会社のエンジンに、下手をすればライバルの様な自動車会社名を入れてしまったりも出来るのですから。

成功したPUのコピーを作ってしまえばチームは上位に留まることも可能

F1に新規参入を決めたメーカーが逆利用する例もあります。

パートナーとなったチームのエンジンを徹底研究して自らのエンジン作りに反映させるのです。

これはてっとり早い方法で、F1参入初期にある事例です。

取り敢えずコピーエンジンを作ってしまえば、いきなりそこそこの結果が得られるからです。

ホンダが単なるカスタマーとはならなかったのは、今後レッドブルのパートナーになるであろうアウディ、ポルシェにノウハウを吸い取られたくないということです。

ネットの声

「レッドブルからお金を引き出す為にもワークス撤退、HRC管理は大切だろう。ワークス供給って全くの無料だったからね。タダであれだけの事をしてくれたら持ち上げるのは普通だと思う。そう考えるとホンダもダメダメだったけれどマクラーレンは腐っていたな。」

「要するにホンダ技研工業としてF1参戦を辞めで無償も止めてHRCとしてRBパワートレインズの依頼で開発・製作する事ですね。あと知的財産は移らないと、まる子が言っていた様な…。」

「潮目が変わったのは四輪レース部門がHRCに移管されたところなのだと思うが、それ以前に22年にホモロゲートされるまではホンダが開発を担当することは決まっていた。また22年はRBPの設備が整わないためHRDsakuraが製造供給することが決まっていた。それ以降何かが変わったとすれば25年末まで日本での製造が継続されること。26年にRBPが新規参入でPU供給を行う。この2点かと思う。」

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