黒澤作品の入門用なら『用心棒』を見たらOK

黒澤作品の入門編はコレ!

三船敏郎のカリスマ性に惚れる『用心棒』

本業の落語のみならず、映画や音楽など幅広いカルチャーに造詣が深い21歳の落語家・桂枝之進。

自身が生まれる前に公開された2001年以前の作品を“クラシック映画”と位置づけ、Z世代の視点で新たな魅力を掘り起こします。

『羅生門』に感じた強烈な凄み

これまで海外作品を取り上げることが多かっただが、ここでは日本映画界の巨匠である黒澤明監督作品を紹介します。

最初に黒澤作品を見たのは中学生の頃。

当時よく通っていた大阪ステーションシティシネマでリバイバル上映されていた『羅生門』(1950)だった。

館内は自分の親のまた親世代の観客で超満員。

映画が始まると、雨の降る羅生門で男が佇む冒頭のシーンから、羅生門がアップで映し出されるラストシーンまで、“迫力がある”なんて言葉では言い表せない強烈な凄みを感じた。

「この人たちは、この映画を撮ることに命をかけているんだろうな」と圧倒されたのを覚えている。

その中でも一際、狂気をまとっていたのが、多襄丸(たじょうまる)を演じる三船敏郎だった。

調べてみると黒澤明監督作品には欠かせない存在のようで、ほかにも『七人の侍』(1954)や『椿三十郎』(1962)などに出演。

一度は聞いたことのあるこれらの作品は、黒澤と三船の名タッグによって生み出されているものだった。

『用心棒』は黒澤明作品ビギナーにオススメ

これまで黒澤作品と聞くと、白黒で、いささか難しい印象があった。

しかし、『羅生門』での三船敏郎の凄みや黒澤明の大胆な構成が脳裏に焼き付き、1本また1本とDVDを借りて見るようになっていった。

そんな筆者から、これから黒澤作品を見てみたいという人にオススメなのが『用心棒』(1961)だ。

脂の乗りきった黒澤明が描いた渾身の娯楽作である。

主演の三船敏郎は、この作品での演技が評価され、第22回ヴェネチア国際映画祭の男優賞を受賞している。

舞台は、桑畑三十郎と名乗る浪人(三船敏郎)が訪れた荒廃した宿場町。

ここではやくざ稼業の清兵衛一味と丑寅一味が対立し、抗争の真っ只中。

三十郎は飯屋の亭主に早くここを去れと忠告を受けるが、両者を巧みに騙しながら自分を用心棒にしないかと持ちかけて翻弄。やがて三十郎をめぐって、ふたつの勢力は対立を深めていく。

一度は窮地に追いやられるものの、最後は両者を成敗して町を去っていくという、痛快なストーリーだ。

この作品の魅力は、なんといってもユーモアと緊張感のコントラスト

三船敏郎演じる三十郎は、2組のやくざの抗争を高見やぐらで見物したり、柄杓からそのまま水を飲んでみたりと、とぼけた顔を見せる反面、手に汗握る殺陣ではガラリと形相を変えるので、見ているこちらは固唾を飲んで見守ってしまう。

落語家の桂枝雀は、「笑いは緊張と緩和によって生まれる」と提唱した。

この映画は、三船敏郎の漢気とユーモアが、スクリーンを通して伝わってくるからこそ成立しているように感じた。

2021年に一般公開された映画『サマーフィルムにのって』(2020)では、伊藤万理華演じる主人公のハダシが勝新太郎の殺陣に興奮し、「勝新が尊すぎて~」と言うセリフが印象的だった。

この感覚と同じく、『用心棒』の三船敏郎のカリスマ性は、時代を超えて自分にビシバシと伝わってきた。

クラシック映画の中に今も存在する銀幕のスター達。

推しを見つけるべく、映画に「会いに行く」のも面白いのかもしれない。

『用心棒』(1961)上映時間:1時間50分/日本
2組のやくざが対立する宿場町に流れ着いた桑畑三十郎(三船敏郎)が、用心棒として雇われながらも、両者を衝突させて壊滅させる娯楽時代劇。続編の『椿三十郎』(1962)も作られた。1964年にはセルジオ・レオーネ監督が本作を元にマカロニ・ウエスタン『荒野の用心棒』を製作し、大ヒットを記録した。

ネットの声

「この後、セルジオ・レオーネによって勝手にリメイクされ「荒野の用心棒」として大ヒット。マカロニウエスタンブームを作った。その後盗作騒ぎが起こったがもともとこのお話自体、アメリカのハードボイルド作家ダシール・ハメットの短編「街の名はコークスクリュー」と長編「血の収穫」がベースになっている。面白いのは「街の名はコークスクリュー」は現代版西部劇。それが「用心棒」で時代劇になり、「荒野の用心棒」でもう一度西部劇に戻る。なかなか面白い現象。「用心棒」では修羅場の前にしれっと逃げ出す藤田進が好き。」

「黒澤明監督の入門映画としては、「天国と地獄」を推します。前半の犯人の声(山崎努)。「権藤さん」という言い方。中盤の身代金の受け渡し。後半の警察の捜査、尾行。見所、盛り沢山。初めて見たのは、東宝によるリバイバルの映画館。大画面で見たときの、特急が川を渡るシーンは大迫力でした。
「生きる」もいいです。何も知らずに見て、構成の大胆さに驚きました。
猛烈なスピードで話が展開する「椿三十郎」。ぜひ、大画面でもう一度見たいものです。」

「『羅生門』『七人の侍』『椿三十郎』『用心棒』この記事で挙がってる作品はどれも本当に面白い。字幕を付けるべきだと言ってる人がいるが正にその通り。『七人の侍』を観ていると役者の喋り方がボソボソしていて何を言っているのか分からないし、三船敏郎はべらんめえ口調なので更に分かり辛い。
カラーになってからの黒澤作品は駄目だとしたり顔で言う輩もいるがそんな事は無い。映画好きなら「影武者」「乱」も一度鑑賞する事を薦めるが晩年の3作「八月の狂詩曲 」「まあだだよ」「夢」の3本は駄作。
“世界の黒澤”だからと阿っている人も多いのが事実。つまらなかったらつまらないとハッキリ言って良いんです。あくまで個人的な感想。」

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