命のクルーズ 高梨ゆき子 (著) 講談社 (2022/4/7) 1,980円

ふと気付くと、涙がぼろぼろとほおをつたっていく。

「あれ、俺、なんで泣いてんだろ」

自分でもわけがわからなかった。

「東日本大震災以来の、とんでもないことが起きていると思って」ーー

2020年1月、横浜を出港した豪華客船、ダイヤモンド・プリンセス号は、香港、ベトナム、台湾をめぐっていた。

沖縄・那覇を経て、2月4日に横浜に戻る予定だったが、その直前、香港で下船した中国人乗客が発症したことが判明する。

船内でも発熱した乗客が次々に医務室を訪れていた。

しかし、そのとき、多くの乗客はまだ「異変」に気付いてはいなかった。

正装のディナー、外国人歌手によるエンターテインメント、絵画展、マージャン、有志による合唱発表会などが行われ、旅のフィナーレを目前にしていた。

日本政府には、衝撃的な情報がもたらされる。発熱した31人の乗客のうち、10人が「新型コロナウイルス陽性」だったのだ。

横浜で下船予定だった乗客たちは、船内に足止めされることになり、まず厚労省の医系審議官と、横浜検疫所の検疫官らが乗船。その後、災害派遣医療チーム=DMATの面々が乗船した。

DMATは震災や水害など、災害時に発生する病人の救護にあたるボランティア医師たちである。

事務局が片っ端から電話してかき集めたメンバーだった。

当然、感染リスクはある。家族は反対する。活動の法的裏付けさえ満足になかった。

「俺たちがやらなければ」という使命感だけがよりどころだった。

連日、乗客・乗員数十人の感染が判明。2月17日、陽性者は99人にのぼった。

ある外国人女性は、感染が判明したものの下船することを嫌がり、駄々っ子のように床を転がった。

部屋で暴れたイタリア人男性もいた。

混乱をきわめた船内で、医師たちは感染と隣あわせになりながら、困難なミッションにあたっていた。

「薬を」「情報を」焦燥を募らせる乗客の気持ちに、どう向き合えばいいのか。

やがて迎えた、大切な人との別れーー。

医師、乗客への重厚な取材で描きだす、感涙のノンフィクション。

著者について
高梨 ゆき子
読売新聞編集委員。1992年、お茶の水女子大学卒業後、読売新聞社入社。山形支局、東京本社社会部、医療部などに勤務。群馬大学病院の腹腔鏡手術を巡る一連のスクープにより2015年度新聞協会賞受賞。
2017年刊行の『大学病院の奈落』(講談社)で日本医学ジャーナリスト協会賞特別賞受賞。


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