九人の為聖者の密室 H・H・ホームズ (著), 白須清美 (翻訳), 山口雅也 (監修, 企画・原案) 国書刊行会 (2022/9/24) 2,420円

伝説の「さまよえるユダヤ人」を名乗るアハスヴェルが主宰する教団「光の子ら」を糾弾すべく準備を進めていたカルト宗教の研究者ウルフ・ハリガンは、ひょんなことから知り合った作家志望の青年マット・ダンカンの協力を得、二人は「光の寺院」で開かれる教団の集会に参加する。

その集会の場で、全身に黄色い僧衣をまとった教祖アハスヴェルは、信者たちとともに「ナイン・タイムズ・ナイン」の呪いを唱え、ウルフの死を予言する。

その翌日、ハリガン家の家族とクロッケー場でゲームに興じていたマットがふとウルフのいる書斎を見ると、ウルフの机に身をかがめている黄色い僧衣を着た人物の姿が目に入る。

窓は施錠されており、邸内の扉から書斎に入ろうとするものの、やはり鍵がかかっていて中に入れない。

再び外に出て窓から中をのぞくと、ウルフは顔面を撃たれて床に倒れており、存在したはずの黄色い衣の人物は消え失せていた……。

この不可解な密室殺人の謎に直面したダンカンは、探偵小説嫌いのマーシャル警部補と共に「密室派の巨匠」ジョン・ディクスン・カーの《密室講義》を参照しながら推理・検討をするのだが、なんと《密室講義》のどの分類にも当て嵌まらないことが判明する。

困惑する捜査陣を前に、難事件の経緯を知った尼僧アーシュラは、真相究明のために静かに祈りを捧げるのだった……。果たして異色の尼僧探偵の祈りが通じ、神をも畏れぬ密室犯罪の真相が看破されるのだろうか?

ジョン・ディクスン・カーに捧げられ、エドワード・D・ホックが主催する歴代密室ミステリ・ベストテンにも選出された、都市伝説的密室ミステリが新訳によって半世紀の時を経てここに甦る!

装訂・シリーズロゴデザイン=坂野公一(welle design)

「まるで怪人二十面相が少年探偵団のために使うようなトリックである。子供向けの小説ならこういうのでもいいと思うけれど……いまどきこんなものを出されても……。「カーの「密室講義」のどの分類にもあてはまらない」と作者は自慢げだが、単にバカバカしすぎるので無視しただけではなかろうか。

文章も素人臭くて、まるで大学のミステリ研の会誌に載った小説を読んでるみたいな感じがする。もちろん翻訳のせいではなく、きっと原文そのものがそうなのだろう。過去に同じ作者の『ゴルゴダの七』を訳した田中西二郎は、都筑道夫にこう語ったという。「創作をやめた理由が、すでにここに見えていますよ。小説がへただ、というのは、どうにもならないんですね」。なるほどこれも「どうにもならない」下手な小説で、読み進めるのが苦痛でさえある。

そもそもこの「奇想天外の本棚」のラインナップは、少なくとも初回から第三回までは、今は入手困難かもしれないが、どれも過去に翻訳出版されたものばかりだ。新味に乏しくて、とても「奇想天外」なんて言えたものではない。製作総指揮者だけが一人ではしゃいでいる感があるだけに、今後の続刊が不安であるが、どうかそれが杞憂であってほしいものだ。」


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