老人ホームは姥捨て山?
「認知症高齢者」が好まれる残酷な現実
現在、日本では取り扱いに困った高齢者を収容し、適当に管理してくれる老人ホームが求められています。
そして何より、多くの人から支持を得ている老人ホームは、「利用料金が安いホーム」です。
目次
「利用料金が安い老人ホーム」を選ぶ
多くの高齢者は、自分のことを自分で決めると、子供たちから非難されます。
まるで、子供扱いです。
老人ホームへの入居しかり、再婚もしかりです。
日本の多くの家族の事情からして、家族の誰かに従うことで家族の秩序が保たれる、ということなのでしょうか。
大げさな言い方をすれば、子供と高齢者は自分の所有物なので、自分の支配下に置いて管理しなければならない、ということなのかもしれません。
もちろん、その根底にあることは、子供あるいは高齢者本人が判断するよりも、自分が判断したほうが本人のためになるという善意や好意であるということは言うまでもありません。
保護者とか管理者という役割です。
いずれにしても、高齢者の場合、子供たちの支配下に置かれ、自ら老人ホームに入ると言えば、何を血迷ったのか!と反対され、子供たちから老人ホーム送りの処分を下されれば、今度は高齢者本人が「自分で買った家から、なぜ追い出されなければならないのか」と抵抗する、という滑稽な構図になります。
だから、世の中にある老人ホームの多くは、事実上、認知症高齢者をターゲットにした介護施設が多くなっています。
その理由は、子供の判断だけで入居を勝手に決めることができるからです。
よく周囲を見渡してください。
多くの老人ホームは、その「営業科目(あえてそう言います)」の中に、「認知症」を挙げているはずです。
これは、認知症高齢者が、一番簡単に、労せず、集めることができるからです。
理由は、もうおわかりですね。
当人からの明確な意思表示がなく、もしあったとしても子供の意思表示が優先されるからです。
そして、家族は保護者として「本人のため」という大義名分のもとで老人ホームへの入居を決断することができます。
もっと言うと、問題行動などで困っている家族の場合、我慢に我慢を重ねてきている関係で、老人ホーム送りにすることに躊躇や罪悪感が薄れているということもあると思います。
だから、世の中には、認知症などを理由に社会生活に支障をきたす高齢者用の介護施設が、大量に普及しているのです。
現代社会では、取り扱いに困った高齢者を収容し、適当に管理してくれる老人ホームが求められています。
そして何より、多くの方々から支持を得ている老人ホームは、「利用料金が安いホーム」です。
とにかく安くリーズナブル。仕方がないことですが、このトレンドは急速に拡大しています。
ちなみに、老人ホームの「質」は、安かろう、悪かろうです。
老人ホームの運営にかかる費用の50%以上が人件費だからです。
低価格料金にするためには、人件費を削減する以外に方法はありません。
今のような低価格志向が今後も加速すると、そのうち、専属の介護職員のいない、入居者同士でお互いに足りないところを助け合う、相互扶助の共存共栄型の老人ホームが出てくるのではないでしょうか?
冗談みたいな話ですが、現実味があると思いませんか?
土地の安いところに、小さな家をたくさん建てて一つの集落とし、管理棟を造って、管理人を一人置き、原則、自分のことは自分でやりながら、でも、できないことだけを、介護保険制度の中でやってもらう。
しかし、介護保険制度で支援をしてくれる介護職員は、実は、自分と同じ集落の住民だという仕組みです。
お互いに足りないところを足りている人が補って生活をしていくというスキームと言えます。
コストのことを考えれば、このような発想にならざるをえません。
社長がレクサス…社員はボロボロの軽みたいな場所ならよく見る
老人ホームって言うんですけれど??
— ラブリー??しいな# (@Lonely_wolf_san) January 18, 2022
老人ホームは現代の姥捨て山か?
老人ホームへの「入居」という現象を見ていると、老人ホームは現代の「姥捨て山」かもしれません。
多少の救いがあるとすれば、心ある一部の老人ホーム事業者は、たとえ姥捨て山であったとしても、少しでも、まともな姥捨て山にしなければならないと考えているところです。
しかしです。
この事実をもって、私は、すべての人に対し「けしからん」と非難する気にはなれません。
現実的なことを考えた場合、この現象は「しかたがない」ことだと思うからです。
もちろん、お金がたくさんあれば、何も悩むことはありません。
大金を使い高級老人ホームに入居さえすれば、大方のことは解決します。
老後の課題の多くは、お金で解決することができるのです。
何度も言います。
介護の沙汰も金次第です。
これが現実です。
受け止めなくてはなりません。
しかし現実は……。
多くの人の場合、老後を十分に過ごすためのお金はありません。
冷静に考えてみれば、しごく当たり前の話です。
多くのケースでは、子供を教育するために多額のお金を子供に投資します。
しかし、その投資したお金が利子をつけて戻ってくる可能性はけっして高くはありません。
というよりも、今の時代は、ないに等しいと思います。
高度経済成長期ならいざ知らず、今は、経済も右肩下がりの時代です。
偏差値の高い大学を卒業しても、仕事にありつける保証はありません。
さらに、仕事に就いたとしても、高い賃金をもらえる保証もありません。
1億総中流という言葉が、かつてありましたが、今は、これまで「中流」と言われてきた人たちが、貧困層への道を突き進んでいる転換期の中にいます。
これから高齢者の仲間入りをする世代にとって、自分の老後が安心で、十分なお金を用意することができるなど、夢のまた夢の話なのです。
さらに問題を複雑にしていることは、困った親の面倒を見なければならない子世代の多くが、社会の中では、その役割を終え、社会から抹殺されようとしている点です。
その昔、人間50年と織田信長は謡っていましたが、今の時代も実は人生50年です。
多くの一流企業では、50歳の声を聞くと「役職定年」「子会社への出向」「早期退職」となります。
エリートであればあるほど、このようになっているはずです。
それでも、大手企業の場合、割増しの退職金など手厚い金銭が保証されているため、まだましです。
中小企業に至っては、何もありません。
ただ単に、新しい戦力と選手交代して会社から捨てられるだけです。
そして、この話をさらにややこしくしていることに、晩婚化があります。
50歳以上になっても、まだ子供が高校生、中学生というケースが珍しくないという現実です。
もちろん、中には50代でスキルアップを伴なう転職や起業で経営者になる人もいるとは思いますが、それはごく限られた少数派の話と考えるべきです。
つまり、親を老人ホームに入れることを検討している子世代、というよりも検討しなければならない子世代は、事実上、親の面倒を見る余力はない、ということなのです。
さらに言うと、いまだに、親に何らかの経済的支援をお願いしている50歳代の子世代も珍しくありません。
多くの50歳代の子世代の本音は、親の老後どころの話ではなく、自分の老後のほうが心配だ、ということのほうが、実際の話だと私は思っています。
そんな子世代が親の老人ホームを探している時、「親のためにもっと良い老人ホームを探すべきでは?
もっとお金をかけるべきでは?
老人ホームは、安かろう、悪かろうなんだから、高いホームのほうが良いに決まっている」などということを言えるでしょうか?
誰がいったい、子供の行動を責めることができるでしょうか?
高齢者問題は、明らかに社会政策の問題です。
国民一人一人が自力で解決できるような簡単な問題ではありません。
老人ホームで暮らすお年寄りをみていると、他人と比べて「幸せ」を感じる人と自分基準で「幸せ」を感じる人がいる。
前者はつねに他人を見下したり蔑んだりしていて、後者は温かいコーヒーやなんなら生きてること自体に幸せを感じてる。未来のことはわからない。でも自分は自分として幸せでありたいな— しろたぬ@モグモグごっくん (@shirotanu_dds) January 18, 2022
間違いだらけの老人ホーム選び 小嶋勝利 (著) プレジデント社 (2021/11/12) 1,650円
業界のウラもオモテも知る第一人者が語る本当の姿!
親の資産が潤沢にあれば、希望するホームに入ってもらって楽になれます。
しかし現実は厳しく、親の年金額内で賄(まかな)える老人ホームを探すしかありません。
「介護の沙汰も金次第」。けれども、たやすく金を貯めることも、手に入れることもできません。
限られた条件の下で、満足できる老人ホームは選べるのでしょうか?
「口コミはあてにならない」「スタッフの離職が多いホームは避ける」など、現場に熟知する著者がこっそり教える、正しい選び方のポイント!
人生の最後で後悔しないために、これだけは知っておきたい老人ホームの理想と現実がここに!
著者について
小嶋勝利
こじま・かつとし
株式会社 AFSON TRUST NETWORK 常務取締役
公益社団法人 全国有料老人ホーム協会 業務アドバイザー
神奈川県生まれ。介護付き有料老人ホーム「桜湯園」で介護職、施設長、施設開発企画業務に従事する。
2006年、有料老人ホームのコンサルティング会社AFSONを設立。
2010年、有料老人ホーム等の紹介センター大手「みんかい」をグループ化し、入居者ニーズに合った老人ホームの紹介に加えて、首都圏を中心にホームの運営コンサルティングを行っている。老人ホームの現状と課題を知り尽くし、数多くの講演を通じて、施設の真の姿を伝え続けている。
医療介護の経営情報誌 日経ヘルスケア誌に「覆面調査員が解決! 介護現場再生の秘訣」を長期連載中。
『誰も書かなかった老人ホーム』『老人ホーム リアルな暮らし』(共に祥伝社)、『老人ホームの金と探し方』(日経BP)、『もはや老人はいらない! 』(ビジネス社)などの書著がある。
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