殺菌・抗菌・除菌・滅菌・消毒… 何が違うの?感染予防にハンドソープは??

殺菌・抗菌・除菌・滅菌・消毒…いろいろあるけど何が違うの?

新型コロナウイルス、インフルエンザや胃腸炎…感染症にもいろいろあります。

ところで、みなさんはハンドソープをどうやって選んでいますか?

「香り重視」というのも多いのではないでしょうか。

しかし、赤ちゃんが生まれて視点が一変。

「除菌」の文字が目に飛び込んでくるようになった…という人も多いでしょう。

自分の手がばい菌で汚れていてはいけないから……と、殺菌効果の高そうなハンドソープを探し、ウイルスにも効きそうな除菌ウェットティッシュを家に常備。

哺乳瓶を消毒し、食卓をアルコールで拭き取り、除菌洗剤で皿を洗い、「抗菌」容器に「殺菌」ハンドソープを詰め替えながら、だんだんワケがわからなくなって…。

ある日、「抗菌加工済み」と書かれた駅のエスカレーターの薄汚れた手すりをつかみながら、ふと思ったのです。

そもそも殺菌・抗菌・除菌って、いったい何なんだ??

Contents

ばい菌をやっつけているのは…

ハンドソープの売り場でじっと製品を見ていると、「殺菌」「除菌」「消毒」とたくさんの表現が目に入ります。

「薬用」という表示や、容器が「抗菌」と書かれているものもあります。

「こうした言葉は、大きく分けると『菌を殺す』ものと『菌を殺さないが増殖を抑える』ものの二つに分けられる」。

こう話すのは、抗菌加工の研究や指針作りに長年携わってきた、徳島大名誉教授の高麗寛紀さん。

菌を殺すのが「殺菌」で、菌を増やさないようにするのが「増殖抑制」。

前者は医薬品医療機器法(旧・薬事法)に基づいて厚生労働省が文言の表示などを規制していて、後者はそれぞれの製品の業界団体が表示の自主基準を定めています。

殺菌の中にはさらに、「消毒」と「滅菌(めっきん)」という分類があります。

「消毒」は病原性のある細菌(病原菌)をターゲットにした言葉で、感染症を防げる程度まで病原菌を殺すこと。

一方、病原性の有無にかかわらずすべての微生物を殺すことを「滅菌」といって、高圧水蒸気や強い消毒薬で処理するなどして完全に微生物を死滅させるのです。

そういえば、ばんそうこうやガーゼなどのパッケージに「滅菌済」という表示を見たことがあります。

これは、封の中には生きた微生物が存在しないことを意味しているわけですね。

強力な除菌・除ウイルス効果

抗菌には2つの意味がある?

では「抗菌」とは何かというと、ここに少し言葉のからくりがあるようです。

高麗さんによると、学術用語としての抗菌(Antimicrobial)は、本来は殺菌や増殖抑制をすべてひっくるめた、微生物を制御するという大きな概念なのだといいます。

ところが、1980年代から工業製品の「抗菌加工」がブームになり、1998年に当時の通商産業省(現・経済産業省)が「抗菌加工製品における抗菌とは、当該製品の表面における細菌の増殖を抑制すること」とガイドラインで定義しました。

このため、抗菌加工製品でいう抗菌は「増殖抑制」を表すようになったのです。

もうひとつ、微生物を取り除くという概念の「除菌」が、近年注目されるようになってきました。

言葉の定義は、洗剤やウェットティッシュなどの業界団体がつくった、試験方法や自主基準の中に記されています。

台所用洗剤のスポンジに対する除菌なら「除菌効果のないものを使ったときと比べて、対象物から生きた細菌数をある程度減らすこと」を意味し、ウェットティッシュなら「除菌効果のないものを使ったときと比べて、対象となる硬い表面(手指などの身体部分を含まない)から生きた細菌数をある程度減らすこと」を意味しているのです。

そして、抗菌も除菌も、あくまで「増やさない」ようにしているのであって、菌を殺しているわけではない、という点がポイントです。

え……そうだったのか! ということは、「抗菌加工」されたエスカレーターの手すりに、ばい菌がいないわけではないし、「除菌」ウェットティッシュが対象にしているのは、あくまでテーブルやドアノブなどの硬い物の表面をぬぐい取ったときの効果…ということになります。

除菌ウェットティッシュで一生懸命手を拭いたところで、手からばい菌をぬぐいさる効果を製品がうたっているわけではないのか……。

自分の行動を振り返りながら、キツネにつままれたような気分になってきた人も多いのではないでしょうか。

ちなみに、こうした抗菌・除菌グッズや、殺菌・消毒グッズには、何らかの抗菌剤が配合されたり、練り込まれたり、表面に塗ってあったりする。ハンドソープで言えば、場合によっては、殺菌・消毒と表示されているものと、されていないものに、同じ薬剤が使われていることもありうるのです。

しかし、たとえ同じ薬剤を含んでいたとしても、「殺菌」や「消毒」という効果・効能をうたうことができるのは、厚生労働相に「医薬部外品」として承認された製品に限られるというわけですね。

厳しい条件をクリアした医薬部外品のハンドソープには、「薬用」と表示されていることからもそれがわかります。

ペットの目や口に入っても安全

より効果的な手洗いの方法とは?

それでは、「殺菌」「消毒」と書いてある薬用ハンドソープを使えば、「手のばい菌」はきれいになるのでしょうか。

そもそも、大切なのはそこですね。

米国食品医薬品局(FDA)は2016年9月、「抗菌せっけんと普通のせっけんを比べたとき、感染症を予防する効果にあまり差は見られない」などを理由として、トリクロサンやトリクロカルバンなど19種類の有効成分については、抗菌せっけんに使用するのを1年以内にやめるよう通知を出しています。

これを受けて、日本の厚労省も同月、こうした成分を含む薬用せっけんは、1年以内に代替成分に切り替えるよう通知を出しました。

同省によると、2017年10月までに、国内でも全ての製品が対応をすませ、成分を切り替えるか承認を取り下げるなどしたということです。

ただ、同省の担当者によるとあくまで「感染症を予防する効果については根拠が十分ではなかった」ということで、「殺菌効果を否定するものではない」ということなのだということです。

感染を予防する正しい手洗いとは?

それでは、感染を予防するという観点から大切なことはどういったことでしょうか。

実は、手の洗い方にポイントがあるようです。

ウイルスを使った研究で、手洗いなしと、流水のみ、殺菌成分を含む薬用ハンドソープを使った手洗いを比較し、手についたウイルスをどれくらい減らせるかを調べた、東京都健康安全研究センターの研究があります。

それによると、手洗いなしの場合のウイルス量を100万としたとき、流水のみだとウイルス量は100分の1に、ハンドソープを使うと1万分の1ほどに減らすことができたのです。

また、ハンドソープを使った手の洗い方を比較したところ、「10秒もみ洗いしたあとに、15秒流水で洗い流す。これを2回繰り返す」という方法のほうが、「10秒もみ洗い+15秒すすぎ1回」や「39秒もみ洗い+15秒すすぎ1回」よりも効果が高く、手に付いたウイルス量を100万分の1程度まで減らすことができたのです。

ちなみに、ウイルスの感染力に着目すると、薬用ソープを使うことで、より感染力を弱めているわけではなかったのです。

実験で使ったハンドソープには、いずれも泡立てる成分の界面活性剤が含まれていて、研究を担当した森功次さんは「実験結果は、物理的に洗い流すことの効果を表していた。手洗いの時は、せっけんをしっかり泡立てて洗い流すことが大切です」と話していました。

なるほど、どんなハンドソープを選ぶかよりも、まずはしっかり泡立ててしっかり流す。これなら実践できそうですね。

おすすめの記事