【糖尿病の運動療法】ウォーキングより無酸素運動の筋トレをおすすめする理由 安全性の高い「ゆっくりスクワット」のやり方
一般的に、糖尿病の運動療法として推奨されている、ウォーキングなどの有酸素運動は、心肺に負担をかけることで体を鍛えるものです。
「私は患者さんにより安全性が高い、筋トレを推奨しています。なかでもお勧めしているのは、「ゆっくりスクワット」です。」【解説】宇佐見啓治(うさみ内科院長)
目次
糖尿病の運動療法に「筋トレ」がおすすめ
糖尿病治療には食事療法とともに、運動療法が有効です。
加齢による筋肉の衰えは、誰しも避けられません。
筋肉が顕著に減少するのは40代以降。そして、筋肉量の減少と糖尿病の発症は無関係ではありません。
筋肉内には、ブドウ糖から作られる多糖のグリコーゲンが、エネルギー源として蓄えられています。
筋肉量が減ると、ここでの貯蔵容量が減る分、余剰となった糖が血中や肝臓に流出。
これが、糖尿病や脂肪肝の発症につながります。
一方で、運動して筋肉を使うと、筋肉中の糖が枯渇します。
すると、血中の糖が筋肉に取り込まれるため血糖値が降下。運動で糖尿病が改善するのは、こうした作用によるものです。
一般的に、糖尿病の運動療法として推奨されているのは、ウォーキングなどの有酸素運動です。
しかし、私は「有酸素運動より無酸素運動のほうが合理的」という考えの下、患者さんに筋トレを勧めています。
私が糖尿病治療に筋トレを採用するきっかけの一つになったのが、ボディビルダーとしての経験です。
医師という仕事の傍ら、趣味としてボディビルを続けてきました。
過去には県内のボディビル選手権大会で4位に入賞したこともあります。
筋トレについては、人並み以上の関心とノウハウを持っているので自信を持って患者さんの指導に当たっています。
実際、食事療法に加えて筋トレを行うと、薬よりもはるかに高い効果が得られます。
週3回の筋トレによる1ヵ月後のヘモグロビンA1cの変化
上の図表をご覧ください。
これは、ヘモグロビンA1cが8%以上の糖尿病患者さんに、食事療法と週3回の筋トレを1ヵ月間指導した結果を示したものです。
薬は使っていませんが、ほとんどのケースでA1cが約1%低下しています。
私は勤務医時代にも、入院中の2型糖尿病の患者さんに、同様の指導をしていました。
このときは2ヵ月間で、ヘモグロビンA1cを、平均2.4%改善させることができました。
5ヵ月実践した患者さんで、11.1%のA1cが、5.4%に下がった例もあります。
かたや、一般的な経口糖尿病薬を用いた場合のA1cの改善度は、通常3ヵ月で0.8%程度。
筋トレがいかに有効な治療手段かわかるでしょう。
運動療法は、比較的糖尿病が進行してインスリン分泌量が低下した患者さんにも有効です。
きちんと実践すれば効果が出ると知っているので、患者さんも熱心です。
コロナ禍の状況をふまえつつも、ふだんは週に3回、自主的に医院に集まって、筋トレを実践しています。
ウォーキング行ってきました。
1日13kmとか歩いちゃう話を彼にしたら『歩きすぎで膝痛めるから1日10,000歩くらいにしてあとは筋トレした方がいいよ』と言われたので、今日はこれくらい?スクワットしてきます??#糖尿病#糖質制限#ダイエット#うつ病 pic.twitter.com/pstv99qRCb
— アキマル??元むらさき (@cruelpurplebaby) October 24, 2020
有酸素運動より無酸素運動のほうが合理的な理由
私が「有酸素運動よりも無酸素運動の筋トレのほうが、糖尿病治療に有効」と考える理由は主に以下の三つです。
エネルギー消費の効率性
有酸素運動は、実はそれほどエネルギーを消費しません。
人類は進化の過程で、少ない食料を効率よくエネルギーにして動く必要がありました。
有酸素運動は「燃費のいい体」をつくるので、エネルギーを必要最小限しか消費しなくなります。
つまり、やせにくい体になる可能性があるのです。
一方、筋トレを含む無酸素運動はどうでしょうか。
成人男性が1日に消費するエネルギー量は2200kcalです。
このうち、何もしていなくても使われる分が1500kcal。これを、基礎代謝といいます。
基礎代謝は、体のどの部位で消費されているのでしょう。
器官別に見ると、脳で3%、肝臓で12%などに対して、筋肉は39%。実に4割が筋肉で使われています。
つまり、エネルギー消費量を増やしたいなら、筋肉量を増やすのが近道なのです。
筋トレで基礎代謝が増え、やせやすい体になり、肥満が解消されれば、糖尿病の改善に大いに役立ちます。
グリコーゲン消費の効率性
有酸素運動と筋トレでは使われる筋肉も違います。
有酸素運動で使うのは主に「赤筋」と呼ばれる筋肉。
持久力に優れた遅筋線維が多い赤身の筋肉です。
かたや、筋トレで使われるのが、白身の筋肉「白筋」です。
瞬発力に優れた速筋線維が多いという性質があります。
白筋は赤筋よりも、グリコーゲンが多く含まれているので、白筋を強化したほうが、筋肉内の糖が多く消費されます。消費された分、血中の糖が筋肉に取り込まれます。
よって、白筋を使う筋トレのほうが、赤筋を使う有酸素運動と比べ、高い血糖降下作用が見込めるのです。
太もも前面の大腿四頭筋は、人体で最大の筋肉ですが、それだけに、加齢による減少幅が最も大きくなります。
そして白筋の割合が高いのが特徴です。
そうしたわけで、糖尿病の改善は、この太ももの筋肉をを強化するのが、最も効率的といえるでしょう。
体への安全性
筋トレを患者に勧めない医師は少なくありません。
その理由は、「無酸素運動は息を止めるので、血圧や心拍数が急上昇するおそれがある」というもの。
しかし場合によっては、有酸素運動のほうが危険です。
有酸素運動は心肺に負担をかけることで体を鍛えるものです。
ときにマラソンで死亡者が出るのは、そのためです。
また、体重移動を伴う運動が多く、肥満の人や高齢者は腰やひざを痛めがちです。
一方、筋トレは、呼吸を止めないよう気をつけさえすれば、血圧や心拍数は上がりません。
調査により、「筋トレを1000時間行っても、ケガの発生は1件未満」と、非常に安全性が高いことがわかっています。
【筋トレの王道はスクワット】
インスリンの効きをよくするには脂肪をしっかり燃やすことが大切です。
そこでお勧めは無酸素運動=筋トレ。中でもスクワットは太ももやお尻の大きな筋肉を鍛えられますので、効果抜群。
キツいですが40回1セットを目指して取り組みましょう!#糖尿病 #血糖値 pic.twitter.com/Jz0k5RuZZ5
— シンクヘルス@糖尿病など血糖値の管理アプリ (@health2sync_jp) March 17, 2021
おすすめの筋トレは「ゆっくりスクワット」
こうしたことをふまえて、私は患者さんに筋トレを推奨しています。
そのなかでもお勧めしているのは、「ゆっくりスクワット」です(やり方は下項参照)。
この筋トレは、主に太もも前面の大腿四頭筋を鍛えます。
この筋トレの効果を、より高めるポイントが二つあります。
一つめは、スクワットの際に、ゆっくりしゃがむこと。
筋肉は引き伸ばされるときに、小さな傷が生じます。
これを修復する際に、より太く、大きくなるからです。
二つめは、トレーニングは1日おき、週3回程度にとどめること。
休むことで筋肉の損傷が修復され肥大化するからです。
注意点は、前述のとおり、呼吸を止めないように気をつけてください。
声を出して数えながら行いましょう。
腕立て伏せを併せて行うとさらに効果的!
ちなみに、胸の大胸筋も、上半身では最も大きく白筋の割合が多い部位です。
余裕があれば「プッシュアップ(腕立て伏せ)」も、スクワットに加えて行うと、なお効果が高まるでしょう。
まずは1ヵ月、ぜひ続けてください。